閑話 エリザベス視点
エリザベス視点がなさすぎて寂しいので、今回の更新分は閑話にしました。
時系列でいうとリリアの夢に現れた直後あたりです。
「今話してた子、恋人?」
そう問いかけられて、目を瞬いた。
何だかんだと一緒にいるが、最近はその類の勘違いをされることはほとんどなかったので、逆に新鮮だ。
苦笑しながら答える。
「まさか。友達」
「信頼してるんだ」
「同郷だから。それなりにね」
「でもあの子、絶対エリザベスのこと好きよねぇ」
「はは」
姫巫女様の興味津々と言わんばかりの視線を笑ってかわす。
私としては早く次に行って欲しいのだが、どうにもそれはなかなか変わらないらしい。
「それで? 次は誰の夢に行く? さっき話してた、聖なる力があるもう一人の子のところ?」
「いや、レイは最後にしようかな」
顎に手を当てて、思案する。
この国では「巫女」と呼ばれている存在の彼女は、リリアの使う聖女の力のうちで「聖女の祈り」に特化した能力を持っていた。
この国の王族であることも相まって皆に「姫巫女様」と呼ばれているので、私も真似している。
彼女は双子であり、彼女の片割れは魅了の上位互換、「認識阻害」の方に特化した能力を持っているらしい。
この国では、聖女というのはもともと2つの力のうちどちらかを持つものだとして扱われているらしかった。
我が国の聖女も、言われてみればレイは認識阻害特化型である。
主人公のリリアが、たまたま主人公補正で両方の力を持ってしまっているだけなのかもしれない。
片割れの巫女は、今ここにはいない。怨霊に取り憑かれて行方知れずになってしまっているからだ。
姫巫女様は、悪霊を祓って片割れを連れ戻すためにここにいる。
遭難したところを助けてもらった集落で、利害の一致する協力者に出会えたのは、私にとって都合の良い偶然だった。
姫巫女様によると、私のことを、みんなが忘れている。それによってディアグランツ王国と私との繋がりが希薄になっているらしい。
それが行き過ぎると、私と言う存在が締め出される可能性があるとか、なんとか。
最終的には私自身も自分がどこから来たのか分からなくなって、このまま北の国から帰れない、とか、そういうことになるらしい。
それが認識阻害のさらなる上位互換、認識改変というものらしかった。
認識阻害が解けて私のことを思い出した人間が増えると、それだけ私とあの国との繋がりが強化される。
可能性があるなら、多くの人に私の存在を思い出してもらったほうがいい。
そうすれば認識改変を食い止められる。それが姫巫女様の話だった。
そういうことなので、おそらく誰も私のことを覚えていないだろうが……一応姫巫女様の力を借りて、家族や友人の夢を訪ねてみるつもりだった。
だがもし、本当に誰も覚えていなかったらさすがに骨折り損すぎてがっくりきてしまう。
だから、レイは最後に取っておきたかった。主に私の精神衛生上の問題だ。
片割れの巫女の行方を追いながら、夜には夢を通じて知り合いたちに働きかける。
そうして私自身をこの世界に繋ぎ止めておいて……巫女を捕まえた暁には、悪霊を叩き原因を断つ。
これで万事解決に至る見込みであった。
さて、誰の夢を訪問しようか。そう考えて、最初に頭に浮かんだ人物の名前を、姫巫女様に伝えた。





