37.お約束(リリア視点)
モブどれ4巻の発売日が2024年1月20日に決定いたしました〜! どんどんぱふぱふ〜!!
詳しくはまた活動報告を書きますが、早く情報を知りたいよ!という方は岡崎のTwitter(X)をご覧ください。
「このナイフに、そんな力が」
「た、たぶん、なんですけど」
一通り説明をしたところで、クリスくんが手元のナイフを眺めます。
刃の部分が少し珍しい色合いで、それも聖剣とよく似ていました。
聖剣というくらいだから聖なる力と何かしらの関係がありそうですし、聖なる力といえばやっぱり、聖女です。
聖女信仰の根強い西の国の特産品である鉱物が、聖女の力にまつわるもの……というのは、何となく「っぽい」話に思えました。
思えば西の国で聖女探しをしていた団体が持っていたのも聖女の力に反応して光る鉱石? のようなものだったので、もしかするとこれも同じ原材料から出来ているのかも知れません。
「このナイフに使われてる鉱物が、聖女の力を蓄えて、増幅させる……とか。そういうことなんじゃないかと」
クリスくんの手から受け取ったナイフを、革製のカバーに納めます。
さっきクリスくんにビームを放った時のことを思い返しながら、ぽつりと誰に言うでもなく、呟きます。
「でも、もう蓄えてたぶん、なくなっちゃったみたいです」
さっきクリスくんにビームを撃った時には、ナイフの刀身がほんの少ししか光らなかったのです。
ロベルト殿下を殴った時には全く力を使っていませんでしたし、アイザック様を殴った時にも少し流し込んだ程度です。
ナイフに蓄えられていた力はかなりのものだったのでしょう。
だけど、今回はその助けがほとんどない。
それで不安になって、クリスくんに放ったビームには、これでもかというくらいの量の聖女の力を込めました。
それでも、クリスくんの様子に変化が出たのは、ビームがガス欠になりかけた頃でした。
つまり、ちょっとやそっとの……普段怪我を治すくらいの力では、足りない。
ナイフに蓄えられて増幅されていた力があったから何とか足りただけで、本来わたしの力だけでは、1日に1人か2人がやっとなのでしょう。
世界機構から奪い尽くした、大聖女のわたしの力でも。
過去の経験から言って、聖女の力は1晩寝ればだいたい充填されます。
でもこの国の、エリ様を知っている人にエリ様のことを思い出してもらおうとしても……一日1人か2人では、ちょっと気が長すぎます。
やっぱり、聖剣が必要です。
この前もあの剣に聖女の祈りを掛けましたし、時間経過で増幅するものなのかとか知りませんけど、少しくらいは力がストックされているはずです。
大きさもこのナイフより大きいので、強い増幅効果とか、あるかもしれません。
それに何より、聖剣です。
そしてここは、ゲームの世界。
そんな大層な扱いを受けているマジックアイテムが、ただの蓄光の剣だなんて、そんなことあるわけないのです。
ほとんど勘ですけど……ゲームのセオリーというか、お約束というか。
意味深な感じで出てきた、その時点では使えないアイテムが……後々問題を解決するための重要な鍵になる。そういう展開って、ある意味王道なのではないでしょうか。
聖剣について考えながら、聖女の力が空っぽになったナイフをロベルト殿下に返します。
わたしからそれを受け取ったロベルト殿下が、ぱちぱちと目を瞬きました。
「このナイフ、軽くなっている」
「え?」
「前はもっと、見た目の割に重かったはずだ」
「……そういうことか」
アイザック様が、はっと顔を上げました。
見た目の割に重いと言うのは、聖剣と同じです。
といっても、あれはちょっと重すぎでしたけど。
蓄えられた聖女の力を使い切ると、軽くなる。それって、つまり。
「あくまで仮説だが……お前が見たという聖剣には、西の国のこれまでの聖女たちの力が込められていたんだろう」
アイザック様の言葉に、頷きます。
わたしも今、同じことを考えていたからです。
「おそらく、お前がこのナイフに込めた力の何千倍という力だ」
「な、何千倍……」
「歴代の聖女の力が脈々と、受け継がれてきた。聖剣を依代にして」





