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モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
第2部 第7章 天下一武道会編

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36.考えなしにグーパンチ(リリア視点)

「り、リリアさん? えと、何故正座を」

「やはり僕を殴る必要はなかっただろう」

「す、すみませんでした……」


 アイザック様に言われるままエリ様のお家に来て、体力がすっからかんになるくらいの渾身の聖女の祈りビームをクリスくんにぶちかました結果、殴らなくても記憶が戻りました。

 わたしとロベルト殿下、平謝りでした。


「アイザック、俺を殴ってくれ!!」

「何故だ」

「殴ったのはリリア嬢だが、俺も共犯だ。女性を殴らせるわけにはいかない。罰は俺が甘んじて受ける」

「僕はお前たちほど野蛮じゃない」


 今野蛮とか言われましたけれども。

 聞き捨てなりません。野蛮なのはロベルト殿下だけです。わたしはエリ様の悪影響を受けただけの善良な文明人です。


 ちらりと横目にロベルト殿下の様子を窺います。

 わたし同様正座をして……そしてまっすぐな、曇りなき眼でアイザック様を見上げていました。

 その表情は真剣そのものです。


 ゲームのロベルトだったらこんな顔でこんなこと、絶対言わなかっただろうな、と思いました。

 素直に謝って、女性を庇って。

 こういうの、騎士道精神っていうのでしょうか。


 しばらくロベルト殿下の顔を見下ろしていたアイザック様が、やれやれと首を振って、ため息をつきます。


「お前たちは何か行動を起こす前に一度相談しろ」

「い、一刻を争うと思ってぇ」

「もし王家の協力が必要になったらどうするつもりだった」

「え? そ、それは、王太子殿下にもこう、一発」

「お前たちは、何か、行動を起こす前に、僕に、相談しろ」


 二回言われました。

 大事なことのようです。


「で、でもほら、記憶は戻ったわけですし! 怪我だって治ったんですからノーカンということには」

「眼鏡が歪んだ」

「何だ、まっすぐにすればいいのか? それなら俺がやろう、貸してくれ」

「お前にだけは預けない」


 手を差し出したロベルト殿下に、アイザック様が声を険しくします。

 賢明な判断です。まっすぐにされるだけでは飽き足らず、最悪の場合モノクルみたいにされる可能性があります。


「殴ったのは悪かった。だが隊長を取り戻すにはお前の力が必要なんだ」

「……確かにお前とダグラスに任せてはおけない」


 アイザック様が歪んでしまった眼鏡の位置を直しながら、またため息をつきました。

 何でしょう、確かに考えなしにグーパンチしたのはまずかったと思いますけど、ロベルト殿下と同列に並べられるとどうしても釈然としません。


 アイザック様はわたしとロベルト殿下に、立ち上がるように視線で促しました。


「まずお前たちの知っていることを全て教えてくれ。話はそれからだ」

「アイザック……!」


 ロベルト殿下がぱぁっと表情を明るくします。


 アイザック様の口から「教えてくれ」なんて言葉が出るなんて。

 クール系眼鏡キャラは常に教える側のはずなのに、何だか変な感じです。

 相談しろ、とか。そういう発言をするキャラでもなかったと思うのですが。


「ち、ちょっと、待ってください!」


 それまでぽかんとしてわたしたちを見つめていたクリスくんが割って入ってきました。

 現状ただ聖女の祈りビームを浴びせられただけの人なので、勝手に話が進んでいて「ちょ待てよ」という気持ちになるのも当然です。


「姉上を取り戻すって、……姉上の身に何が起こってるんですか!?」

「え、ええとぉ、話すと長いんですけどぉ」

「……ぼくは、」


 クリスくんが、少し俯きました。

 唇を噛み締めて、そして、顔を上げます。

 わたしたちをまっすぐに見つめて、はっきりと言いました。


「ぼくは、姉上の家族です。ぼくにだって、知る権利があるはずだ」


 アイザック様が、わたしに視線を向けました。

 頷いて、わたしはクリスくんにも状況を伝えます。


 話しながら、思いました。

 ゲームの中のクリスなら、きっと……エリ様のことを家族だとはっきり言うことなんて、なかったのでしょう。

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[良い点] 聖女「アイザック!エリ様を忘れたことそのものがお前の罪だ!歯ァ食いしばれ!聖女きーっく!」
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