34.手伝って、ほしいんです(リリア視点)
ロベルト殿下を引き連れて向かった先は、王城でした。目当ての人物がここに来ていたと聞いたからです。
その人物の後ろ姿を見つけて、わたしは声を上げます。
「お覚悟!」
「は?」
その人物……アイザック様が、こちらを振り向きました。
ロベルト殿下が素早くその背後に回り込み、彼を羽交締めにします。
わたしは助走をつけた勢いのまま、彼の横っ面に拳を叩きつけました。
「聖女パンチ!!!!!」
「ぶっ!?」
またしてもごしゃりと嫌な感覚がします。骨から伝わってくるようでした。
アイザック様のアイデンティティ、眼鏡がものの見事に吹っ飛びます。
拳がぶつかった直後、わたしが反対の手で握りしめていたナイフがまたぱっと輝きました。……が、さっきよりは光が弱くなった気がします。
その様子に、わたしは自分の予想が正しいことを確信しました。
聖女パンチがヒットしたのを確認すると、ロベルト殿下がアイザック様を解放しました。
彼はすぐさま眼鏡を拾って掛け直します。
頬の拳の跡は光が消えると同時になくなっていましたが、眼鏡はちょっと曲がったままになっていました。さすがにそれは聖女パワーでは直せません。
ロベルト殿下ならくんにゃり曲げてくれるかもしれませんけど……元通りになるかは怪しいですね。
アイザック様がわたしたちに向かって声を荒げます。
「お前たち、いきなり何を」
「思い出しました!?」
「はぁ!?」
怒りと呆れと困惑がごちゃまぜになった声を出すアイザック様に、負けじと詰め寄ります。
「問題です!」
「何だ、藪から棒に、」
「いつも一緒に勉強会をしていたのは、わたしと、ロベルト殿下と、あともう一人! 誰でしょう!?」
「そんなもの、バートンに決まって、」
言いかけて、アイザック様が息を飲み、目を見開きました。
そして、わなわなと唇を震わせます。
どうやらアイザック様も、思い出したようです。
「バートン、」
ぽつりと、こぼれ落ちるようにエリ様の名前を呼びました。
その声は掠れていて、それが彼の衝撃の大きさを表しているようでした。
彼はわたしの肩を掴むと、切羽詰まった様子で肩を揺さぶります。
「あ、あいつは!? どうなったんだ、遭難したと聞いて、その後、一体」
「思い出したのか!」
ロベルト殿下が驚きの声を上げました。
アイザック様がわたしを揺さぶる手を止めて、ロベルト殿下を見ます。
エリ様やロベルト殿下と比べればひ弱なアイザック様ですが、さすがにこうもがっくんがっくん揺らされると、脳みそがぐわんぐわんしてきたので助かりました。
ロベルト殿下が、神妙な声でわたしに問いかけます。
「リリア嬢、これは、どういうことだ?」
「僕を置いて話を進めるな。何が起きている?」
「お二人に」
脳みそが落ち着いてきたところで、二人の顔を見回します。
何が何やら分かっていないという顔をしていました。
わたしは一つ息をついて、どもってしまわないようにゆっくりと、言いました。
「手伝って、ほしいんです」
「何を」
「みんなに、エリ様のことを思い出してもらうのを」
わたしの言葉に、二人の表情が少し、真面目なものになった気がします。
最終的に何をすればいいのかは、思いついていました。
でもそれを具体的に実現するための知恵と、力。それがわたしにはありません。
だから、力を借りることにしたのです。
彼らはきっと、エリ様のためなら……力になってくれるはずだから。
わたし一人で出来ないなら、誰かに助けを求めてでも、エリ様を取り戻したいから。
ま、わたしからしてみたら、利用してやるぞ、って感じですけど……でも、そうですね。
思えばダンスパーティーであのドタバタ友情エンドを繰り広げたんですから、そのくらいしてくれたっていいと思うのです。
この世界のやり口に乗っかってると思われるのは癪ですけど……この方が、乙女ゲーム的にも正しいのではないでしょうか。
「何をすればいい」
ロベルト殿下と、アイザック様の声が重なりました。
その返事は、わたしの予想通りのもので……ぎゅっと無意識に拳を握りしめます。
真剣な顔をしている二人を見回して、一つ頷くと、わたしは再び口を開きます。
「まず、他国の国宝を借りたいんですけど。どうすれば借りられるかとか、知ってます?」
「…………は????」





