27.実在性エリ様(リリア視点)
シリアスっぽいのがしんどいので突発で今日も更新することにしました。
エリ様が実在性エリ様になったので、エリ様を見つける方法について考えます。
ですがわたし以外はエリ様を忘れてしまっているので、雪山の捜索は打ち切られていました。
当たり前ですよね。何を探していたのか、誰も思い出せなくなっちゃってるんですもん。
かといって、無策でわたしが雪山に突っ込んでもミイラ取りがミイラ、いえ、イエティ取りがイエティです。
何より……エリ様がただ雪山で遭難しているだけとは思えません。
雪崩とか斬り開きそうですもん、あの人。たとえ火の中水の中草の中、雪の中ですもん。
みんながエリ様のことを忘れているというこの状況も、それを裏づけています。
きっと雪崩だけではない何かに、エリ様は巻き込まれているのでしょう。
どうすれば、その何かからエリ様を助け出すことができるのか。
その何かの正体が分からないことが、目下の問題でした。
「聖女様、どしたの?」
そんなことを考えながら教会にお勤めに来たわたしに、レイちゃんが駆け寄ってきました。
ですが、今は子どもの相手をする心の余裕はありません。
というか、あまり人と話したくありませんでした。
わたし以外が、エリ様の存在を忘れている。
どうやら悪ふざけでもなんでもなく、それが現状のようで……エリ様のことを忘れている人と話すと言うのは、何だかどっと疲れるのです。
わたしがエリ様のことを忘れてしまうよりはずっといいと思いましたけど……それでも、みんながエリ様のことを忘れているという状況は、わたしに想像以上のダメージを与えていました。
だって、そうじゃないですか。
エリ様がいない辛さを、不安を、分かち合う相手がいないのです。
それはやっぱり、つらいと思うのです。
「騎士様いなくて、さみしい?」
「そうですね、……そうですね!?」
レイちゃんの言葉に相槌を打ってさらっと流しそうになりましたが……その意味を理解して聞き返しました。
騎士様?
今、騎士様って言いましたか、この子。
レイちゃんがいう騎士様とは、一般名詞ではなく……固有名詞です。
「お、覚えてるんですか!? エリ様のこと!!」
「え? うん」
レイちゃんがけろりとした顔で頷きました。
わたしは脱力してへなへなとその場にへたり込みます。
何と言うことでしょう。こんなに身近に、いたなんて。
近すぎて逆に気づかない、これぞ灯台下暗し。
大正デモクラシー。ええと、平成はレトロでしたっけ。
「どうしたの、聖女様? お腹痛い?」
不思議そうな顔をしているレイちゃんを尻目に、わたしは思考を再開します。
わたしはエリ様のことを覚えている。
てっきり他のみんなは忘れているのだと思っていましたけど、レイちゃんは覚えている。
つまりわたしが主人公だから……この世界の埒外の存在だから覚えているというわけではなさそうです。
「騎士様がレイのとこに帰ってきたら教えてあげるから、元気出して」
にこにこ笑いながら思考の邪魔をしてくるレイちゃんに背を向けました。
ていうか何故エリ様が自分のところに帰ってくる前提で物を言っているのでしょうか、この子は。
帰ってくるのはわたしのところですけど???
エリ様はわたしという港に帰ってくるに決まってるんですけど???
レイちゃんには女の子の格好しているからといってエリ様と結婚できるわけではないことを日々こんこんと教育的指導をしているのですが、あまり効果はないようでした。
なお、この理論はエリ様とレイちゃんの性別に目を向けると瓦解するので見て見ぬふりをしています。
散りかけた思考をなんとかより集めて、レイちゃんとわたしの共通点、そして他の皆さんとの相違点を考えます。
最初は性別かと思っていましたが、たいへんややこしいことにレイちゃんは見た目はこれですけれども中身は男の子です。
女の子だから覚えているわけでも、異性だから忘れてしまったわけでもない。
エリ様を忘れていないわたしたちにあって、エリ様を忘れてしまった彼らにないもの。
簡単です。
聖女の力です。
つまり、エリ様は……聖女の力が関わる何かに、巻き込まれている?
聖女の力は、運命を捻じ曲げる力です。世界を書き換える力です。
聖女の力と相反する力。
それはきっと、世界の強制力。
あるべき形に戻ろうとする、世界機構の力。
わたしに注ぎ尽くして残り滓になってしまったそれらがもし、また何かを企んでいるのなら。
たとえば……ヨウをあんな風に、捻じ曲げてしまったように。
また世界がエリ様の邪魔をしようとしているのなら。
「聖女様?」
レイちゃんがわたしの顔を覗き込みました。
その銀色の瞳を見返して、大丈夫ですと首を振ります。
大丈夫です。
わたしは主人公です。
運命なんて捻じ曲げるし……世界なんて、何度でも、ぶち壊します。
だってそれが、主人公というものです。
真実の愛を知ったわたしなら、真実の愛のためならば、それができる。できてしまう。
それがこの世界の理です。
だってここは、乙女ゲームの世界、なんですから。
真実の愛に勝てる力なんて、あるわけないんです。





