25.イマジナリーエリ様(リリア視点)
引き続きリリア視点です。
もう少しだけシリアス風味(?)が続きます。
「エリザベス? ……何の話だ?」
「だから、アイザック様の、ともだち、ていうか、親友、で」
「……僕に女性の友人などいるはずないだろう」
「妹? フレデリックに? ……ああ、弟の間違いか。確かに見間違えるかも」
「ち、違います! そうじゃなくて、男の人みたいな、だけど、女の人で」
「失礼。もういいかな? 公務が立て込んでいてね」
「……あの。どういうことでしょう。ぼくの兄弟は、兄上だけですが」
「そ、そんなわけない、です、だって、エリ様は、」
「リリアさん、どうしたんですか? 何だか、おかしいです」
……おかしい?
おかしいのは……おかしいのは、お前らだろうが。
そう言いたいのに、うまく言葉が出ませんでした。
すごすごとバートン公爵家を後にします。
何なんですか? みんなして。口裏とか合わせてるんですか?
そんなに仲良かったんですか? 知らなかったんですけど??
もしかしてBのLなんですか? そういうアレのやつですか?
それならそれでいいですよ。男の人は男の人同士、女の子は女の子同士で幸せになればいいんです。
そちらはそちらで好きにやってもろて。ダイアナ様は大歓喜でしょうし。
足が鉛のように重たくて、なかなか前に出ませんでした。
だって前とか上を向いて歩く気にはなれなくて。
かと言って下を向いていると、いろんなものがこぼれ落ちそうで。
のろのろ、ゆっくり、男爵家の馬車へと戻ります。
何でみんな、エリ様のこと……忘れてる、みたいな。
そんな人知りませんよ、みたいな。
最初っからいませんでしたよ、みたいな。
何でそんなこと、言うんですか?
今までの、エリ様のこと好き好き、みたいなアレは何だったんですか?
そんなに簡単に、忘れられちゃうものなんですか?
そういう態度なら、知りませんよ? エリ様のこと、わたしがもらっちゃうだけですし。
そもそも告白すらできないヘタレの集まりですし。
わたしの方が一歩どころか100歩、いえ、周回遅れにしちゃうくらい、先行ってるのは事実ですし。
そうなるべくしてなるだけというか?
こっちとしてはせいせいするだけというか?
所詮あなたたちはその程度なんですね、ふーん、へーえ。たいしたことないんだ。
あんなに本気そうだったのにね。男の人って薄情ですね、やっぱり。
みたいな、クソデカ主語で呆れるだけですけど。
え? それとも何ですか?
エリ様って、もしかしてわたしの頭の中にしか存在しないんですか? イマジナリーエリ様なんですか?
わたし幻覚に恋しちゃったりしてるんでしょうか? 聖女なのに? 大聖女なのに?
いくら聖女でも、恋の病は治せない、ってやつなんですかね?
あは、誰が上手いこと言えと?
馬車に乗り込む寸前に、ちらりと公爵家のお屋敷を振り返ります。
クリスくんには会えましたけど、今日はお兄様には会えませんでした。
エリ様のお部屋のあたりを見上げてみましたが、カーテンが閉め切られていて、中の様子は分かりません。
そこはまるで……最初から誰も暮らしていない部屋のようにも、見えました。





