23.わたしが選んだ、王子様(リリア視点)
最初はみんな、やれやれまた心配させやがってとか、そんな程度に考えていたのだと思います。
第十三師団の皆さんと一緒に北の国境付近に向かったエリ様のことを、それなりに心配はしながらも、そこまで大事だと捉えていませんでした。
数日、一週間。
音沙汰がなくて、まだ連絡ひとつよこさないのかとみんな焦れてはいましたけど、それはもちろん、エリ様が無事帰ってくることは前提の上で、と言いますか。
だって、エリ様ですよ?
散々わたしたちをやきもきさせた挙句、どうしてそんなに心配しているのかわからない、みたいな顔をしてけろっと帰ってくるのが脳内再生余裕すぎました。
第十三師団から、エリ様が雪崩に巻き込まれて行方知れずだという連絡があって。
居合わせたという第十三師団の師団長に、救えなかったと頭を下げられて、初めて。
はじめてみんな、ことの重大さに気づいたのでした。
大規模な捜索隊が派遣されて、それこそ国をあげてエリ様を探しました。
でも……成果は上がらず。
雪崩に遭ったのがまさに国と国の境目あたりだったので、北の国側にも捜索の協力要請をして探してもらいましたが、見つかりませんでした。
捜索を始めて3日。エリ様と連絡が取れなくなって、10日。
わたしも攻略対象たちも、それ以外の人たちもみんな、焦り始めました。
でも、よく考えてください。
行方不明になったのは、あのエリ様なんですよ。
羆と引き分けたり、爆発する家屋から脱出したり、ダンジョンの床をぶち破ったり。
魔女の魔法にすら打ち勝った、エリ様なんですよ。
主人公が選んだ、王子様なんですよ。
だから、万が一なんてあるわけなくて。
エリ様が本当に、いなくなっちゃうとか。
このまま、見つからないとか。
そんなことは、あるはずなくて。
だから焦る必要なんてないって、心配する必要ないって、そう、自分に言い聞かせるんですけど。
やっぱり心配なものは、心配です。
ていうか、普通心配しますよ。
何かちょっと麻痺してますけど。大切な人と連絡が取れなくなったら、不安になって当たり前です。
これはもう、聖女チョップの一発や二発では許されません。
わたしのチョップなんてそもそも効果ないでしょうから、ここはお兄様から、とっくりたっぷり叱ってもらわないと。
そんなことを考えながら、今日は訓練場へと向かいます。
何か情報が入っていないか聞きに行くためです。
もちろん部外者なので、そんなに詳しいことは教えてもらえませんけど……何もしないでいるよりかは、気が紛れますし、おすし。
あとロベルト殿下の顔を見ると大体状況が分かるので、聞かなくてもそれなりに察することが出来るのです。
まったくもう。わたしがいなくなったらエリ様、同じくらい心配して、探し回ってくれるんでしょうか。
……エリ様ならわたしのこと、あっさり見つけちゃいそうなので、あんまり心配させられないような気がしますけど。
訓練場に着くと、目当ての人物はすぐに見つかりました。
ロベルト殿下もわたしに気づいて、どこか切羽詰まった顔でこちらに駆け寄ってきます。
ロベルト殿下も、わたしが何か情報を掴んでいないかと、会うたびに聞いてくるのです。
わたしが何か知っているはずもないのに、と思うのですが……ま、お互い様ですね。
ロベルト殿下の表情に、今日もやっぱり情報はなさそう、と思いました。
ですが。
「リリア嬢、」
口を開いてわたしを呼んだロベルト殿下が、言葉を詰まらせました。
そしてきょとんとした顔で……どこか戸惑った様子で、目を瞬きます。
あれ、と思いました。
ここ最近の彼はいつも、辛そうに、苦しそうにしていたのに。
「……すまない、俺に何か用事だろうか?」
「え?」
え?





