22.前途ある若者の未来
最後だけちょこっとリリア視点です。
張り詰めた緊張感の中で立ち合う興奮を肌でビリビリと感じる。
繰り出す攻撃と防御の合間にわずかに垣間見える大男は、楽しそうににやりと笑っていた。
化け物め、と思いながらも……私の口角も上がっていくのを自覚する。
懐深くに踏み込んで、一閃。
急所である首を目掛けて剣を振り抜く。
相手の反応がわずかに遅い。剣で受けきれなかったために、一歩、その巨体が後ずさる。
静寂を揺るがす、おお、というどよめきが聞こえた。
これまでずっと仁王立ちで相手の攻撃を受け、そして踏み込んで打ち返してきた十三の師団長が、後退したのだ。
その様は観客を驚かせるには十分だったのだろう。
この機を逃すまいとさらに踏み込もうとしたところ……
「待て」
目の前の男のいやに真剣な声に、何事かと動きを止める。
彼が徐に構えを解いた。先ほどまでの楽しそうな表情は鳴りを潜め、真面目な顔をしている。
一瞬油断させて不意を突くつもりかとも思ったが、体勢さえ立て直せばあちらが有利なのは明白だ。
わざわざ搦手を使う必要はないだろう。
そして何より、この十三の師団長はそんな小手先の技が使えるような人間ではない。
というより正面からの戦い以外に何も出来ない人間である。
いや、もはや人間かどうかも少々怪しい。
「師団長!!」
そう叫びながら試合場に駆け寄ってきたのは、十三の副師団長だ。
なるほど、この気配を感じて戦いを止めたのか。
あれだけの立ち会いの中で、まだそんな余裕があるとは。
副師団長が、焦った様子で壇上によじ登ってくる。
「北の国から救援依頼です!!」
「救援だぁ?」
「山の中に潜んでいた盗賊たちが籠城をやめて出てきたそうで」
「やっと飯が尽きたか」
ばしんと膝を打って、師団長が私に背を向ける。そしてそのまま、あっさりと舞台を降りた。
「悪いな、公爵家の。今回はお預けだ」
そう言って、さっさと試合場の出口に向かって歩き出す。
副師団長はちらちらと私の方を振り返っていたが、最後には一礼して彼の上司の後ろを追いかける。
隅っこでへたりこんでいた審判はぽかんとしてその背を見送るばかりだ。
十三は辺境伯の領地の防衛が本来業務だ。
そこで緊急事態が起きたのであれば、もちろんこんな余興は差し置いてすっ飛んでいくべきだろう。
だが……私にも私の事情がある。
ロベルトが目を覚ます前に決着をつけておかないとややこしい事態になる気しかしない。
だいたい、散々私の将来をおもちゃにしてこんな大会まで開いておいて、途中でほっぽり出すのはあまりに無責任だ。
前途ある若者の未来を何だと思っているのだ、この大人たちは。
身勝手な大人たちに呆れながらも、私も土俵を降りる。
そして十三の師団長の隣に追いつくと、彼を見上げた。
「私も行きます」
「あん?」
「より多く盗賊を倒した方が勝ちというのは?」
「……いいね、乗った」
十三の師団長が、髭面を歪めてにぃと笑った。
「は!? 隊長、何言ってんだ!」
頭上からグリード教官の声が降ってくる。呑気に観客席に座っていたらしい。
「そんなの、賭けはどうなるんだよ!」
この大人、前途ある若者の未来を賭け事の対象にしていやがった。最低だ。
知りませんと舌を出して、競技場を後にする。
さっさと解決して帰ってこよう。
ついでに恩でも売ってやれば、もうこの大男も無理に私を引っ張っていこうとはしないはずだ。
寒いらしいから、外套くらい持ってくればよかったか。
マスクでは寒さは凌げまい。
◇ ◇ ◇
そうやって王都を出て行ったエリ様のことを、私たちはぶーぶー言いながらも見送りました。
だって、その時は思っていなかったのです。
まさかエリ様が……行方不明になるなんて。





