21.僕の考えた最強の技名
相手は構えたものの、一歩も動く気配がない。
私が打ち込んでくるのを待っているのだ。
初撃必殺のフィッシャー先生とは真逆の立ち位置である。
初撃を食らって敗北することなどあり得ないという自信がなければ出来ない振る舞いだ。
だからといって、私の方も一撃でこの男を仕留められるだけの必殺技を備えているかと言うと、そうでもない。
必殺技というのは週刊少年漫画の主人公が持っているものであって、私のような悪役にはないのが普通なのだ。
そもそも必殺技というのは何故ああも派手派手しく名前を叫ぶのだろう。
戦いの最中でわざわざ技の名前を叫ばなければならない状況というのが皆目想像つかない。
剣道の「面」と同じならもう雄叫びで良いじゃないか。
それがないと発動しない魔法のようなものがあるならともかく、この世界では聖女の祈りも無詠唱だし、そういう世界観ではない。
むしろ名前から技の内容を推察されてしまう分損をしているとも言える。
いや、逆に技の名前から想像するのとはまったく違ったタイプの攻撃を放ったりしたら意表を付けるかもしれないが……いいのか、そんな姑息な手段が必殺技で。
しかし何の効果もないのにただ大きな声で「僕の考えた最強の技名」を披露することに浪漫を感じるには、私はいささか大人になりすぎてしまったようだった。
剣の柄を握りしめて、深く息を吸う。
前に推薦状を貰った時の勝ちは、完全に偶然が味方してのものだった。
どのような偶然かといえば、十三の本拠地近くの雪山で戦っていたために、戦いの衝撃でたまたま相手の足場が先に崩れて崖下に真っ逆様に落ちていったというだけのことである。
すわ過失致死かと思ったが、そのあとけろりとした顔で戻ってきて推薦状を書いてよこしたので「完全に生まれる世界線間違えてる」との認識が強まっただけであった。
世紀末の世界線とかに生まれていてほしかった。
この世紀末覇者、取り戻すまでもなく奥さんには愛されているらしいのが謎である。
だがたとえ相手が世紀末覇者でも……勝つしかないのが、今の私の現状だ。
細く息を吐き、そして。
全速力で一歩、踏み込んだ。
切り上げるように下段から放った私の剣を、目の前の男が剣で受ける。
素手で止められない程度には強者として認定されているらしかったことに安堵する。
大したことがないと思っていたら、手ですらなく身体でそのまま受けそうな男だ。
懐に飛び込んだ勢いのまま、続けざまに斬撃を放つ。
派手な金属音と火花が散る。
上段から打ち下ろし、続けて薙ぎ払うように。
それを軽く受け止めて、刃で平打ちされて押し返される。そして今度は向こうが、こちらに切り込んできた。
どうあってもリーチでは私が不利だ。距離を取るのは得策ではない。
至近距離から離されないように何とか喰らいつく。
激しい剣戟を繰り広げる私たちを観客たちも固唾を飲んで見守っているようで、大勢が詰めかけているはずの競技場がしんと静まり返っている気すらしてきた。
自分の呼吸と、土を踏む音、風を切る音……そして剣の激しくぶつかる音。
この世界には、それしかなくなってしまったような錯覚を覚える。





