18.お前、本当に私のこと好きだな
第四師団の控室に向かって歩く。
私としては第四師団に勝ってもらった方がありがたい。ロベルトに喝の一つも入れておくかと思ったのだ。
まぁ、大将戦にたどり着く前に負けるかもしれないが。
「隊長!」
控室に入るまでもなく、廊下でロベルトと行き合った。
ぱっと顔を輝かせて駆け寄ってくる姿に、犬だったら尻尾をぶんぶん振っているんだろうなと想像してしまった。
「応援に来てくださったんですか!?」
「そんなところだ」
すでに明るかったロベルトの表情が、さらに一段階輝度を上げる。何ルーメンあれば気が済むのか。目が焼けそうだ。
「俺、嬉しいです」
ロベルトが私を見下ろす。
見下ろされているのに、まったくそんな気分にならない。むしろ見上げられているような気分にすらなるから不思議だ。
いつものキラキラを惜しげもなく私の顔面に降り注いでくれながら、彼がぎゅっと拳を握りしめた。
「絶対に勝ちます!」
「その方が私も助かるが」
気合いの入りように苦笑いする。
こいつも武道会の雰囲気に呑まれてすっかり盛り上がっていると見える。
いや、元から勝負事には割とのめり込むタイプだった気はするが。
ロベルトは強くなった。マーティンとの試合を見るに、今日は調子も良さそうだ。
だが……それでも、十三の師団長に敵うとは、はっきり言って思えない。
可能性はゼロではない。ゼロではないが……たとえば、私のときのように卑怯な搦手と偶然がうまく噛み合うとか。
そういうことがない限りは、非常に厳しい戦いになるだろう。
気合いは結構だが、勢いで勝てる相手ではない。
「相手は強敵だぞ」
「それでも、」
釘を刺すつもりで言った私の言葉に、彼はわずかに俯いた。
だが目を伏せたのはほんの一瞬で、次の瞬間には、まっすぐに私を見つめ返していた。
若草色の瞳が、強い意志を宿してこちらに向けられる。
「俺は、負けません」
はっきりと、彼はそう言い切った。
ロベルトだって相手との力量差は理解しているはずだ。そのくらいには、彼は強い。強くなった。
だが、それでも……言い切った。
「貴女と一緒に、……貴女のもとで、騎士として働きたいんです」
ロベルトが私を見つめる。
やはり覚悟の強さを感じさせる表情だが……気負いすぎているという感じもしない。
それどころか、わずかに微笑んですらいる。
いい顔になったな、とか。言われる類の表情だろう。
「それが俺の、夢だから」
しばらく目を見開いて彼の顔を見ていたが、やがてふっと笑いが溢れてしまった。
やれやれ、ここまでくると筋金入りだ。
何故こうも慕われているのか、結局何年経っても謎のままだが……教官たちから「隊長馬鹿」とか言われているのにも納得してしまう。
「お前、本当に私のこと好きだな」
「はいっ!!」
呆れ半分でこぼせば、ロベルトが元気よくお返事した。
本当に、どうしてこうも崇拝されているのだろうか。
そう思って苦笑いしていると、ロベルトが「あ、」と小さく声を漏らした。
不思議に思ってその顔を見上げると、彼は顔を真っ赤にして、口をぱくぱくと開閉している。
……うん? なんだ、その顔は。
どういう感情だ?
「す、すみません、こんなふうに、言う、つもりは」
先ほどまでの姿が嘘のように縮こまったロベルトは、みるみるうちに耳まで赤くなっていった。まるで茹蛸のようだ。
私がコメントに困っていると、彼ががばりと勢いよく顔を上げた。
「こ、この武闘会で、勝って! そして、隊長にも、勝って! そうしたらもう一度言いますから、聞かなかったことにしてください!」
「は?」
「それでは! 失礼します!」
止める間も無く、ロベルトは風のように走って去っていってしまう。
しばらく彼の背中が消えた方向を、呆然と眺めることしかできない。
……は?
は??????





