15.ダメだろ、聖女がその高笑いは。
大げさなファンファーレとともに、天下一武道会の火蓋が切って落とされた。
全12チームが勝ち上がりを掛けてトーナメントを戦うことになる。
団体戦と総力戦との差はあるものの、それでも有利なチームはある。
下馬評で評価が高かった近衛や十三は、間違いなく勝ち上がってくるだろうと思っていた。
だが、想定と違う展開になった試合もあった。
リリア率いる――いや実際には率いているわけではないが、気分的に――第7師団が、初戦で勝利を収めたのだ。
第7師団の実力のほどは寡聞にして知らなかった。
だが――この勝利は、騎士としての実力とは少々違うところが齎したものである。
まずは、くじ引きでリリアが総力戦を引き当てた。
相手は第5師団。王都近郊の警護を担当する師団だ。
人数としては五分。ありがたいのは第7師団の制服は白金が基調になっているので、どちらがどちらのチームか一目瞭然なところだろうか。
審判の合図で試合が始まった。
双方入り乱れて、怒声と模造剣で打ち合う音が響き渡る。
この人数が一斉に戦う様子はなかなか見られるものではない。迫力もあってなかなか見ごたえがあった。
最初は五分の戦いに見えたが、徐々に第7師団が押されてきた。
成り立ちを考えれば当然である。教会や聖女を守るための聖騎士だ。攻撃より防御に重きを置いた訓練を行っていることは想像に難くない。
やはり攻め入るとなると、第5師団に分がありそうに見えた。
第七師団の倒れてしまった騎士を、仲間が抱えて後ろに退いていく。
妙だな、と思った。そんなもの捨て置いて、自分の戦いに集中すればよいのに。
しかし次の瞬間、第七師団の本陣でぱっと、白い光が輝くのが見えた。
あれは、まさか。
元気になった騎士が戦いに戻って行くのを見て、確信した。
聖女の祈り、使ってやがる。
「皆さーん! 怪我したら治しますから、気軽に戻ってきてくださいねー!」
「ねー!」
「勝つまで帰れませんからー! 頑張りましょー!」
「ましょー!!」
リリアとレイが元気よく声援を送るのが聞こえてきた。これは果たして声援だろうか?
リリアが言っていた秘策というのはこれだったらしい。
確かに総力戦であれば、いかにこちらの戦力を残しながら相手の戦力を削りきるかということが肝要になる。
そこで聖女の祈りを使って、無限に戦力を補給できる永久機関を導入したのだ。
これであれば、実力が拮抗している相手ならば負けることはない。
理論上は。
だが、とても聖騎士とは思えない超ブラックの気配を感じる。理論上はよくても倫理的にどうなのだろうか。
疲弊しているはずなのに休ませてもらえず、回復だけされて戦場に戻される。
しかし魅了にも掛かっているらしく、特に疑問も持たずにリリアの言葉に従って妄信的に嬉々として戦いに戻っていく。
もはやゾンビである。いいのか、第七師団、これで。
悲しいかな、誰にも疑問を抱く思考力は残っていなさそうだった。
「名付けて不死身の騎士団大作戦! ふはは、勝てればよかろうなのだー!!」
リリアの高笑いが聞こえてきた。
ダメだろ、聖女がその高笑いは。





