14.理解のあるオネエ
しかも口調は普通に男の子だったり、恋愛対象は女性だったりしそうな感じもちょうどよい。
たいてい少女漫画にでてくる美意識の高い男の娘と言うのは、あくまで美意識の高さゆえに似合う女装をしているだけなのである。
「さらに一捻りして『オネエ』とすると?」
「それはまた別ジャンルだけど」
「さらにさらに三回転半して、『理解のあるオネエ』なら?」
「あまりにもいそうだ」
「でしょう!」
リリアが何故か自慢げに胸を張った。
どうして自慢げなんだろう。
少女漫画のオネエというのはやたら面倒見がよく懐が深く、理解のある存在として描かれている。これも一種のステレオタイプなのではないか。
眼鏡キャラや俺様キャラよりはマイナーだが、一定の需要がある特徴と言ってもいいだろう。
毒舌だったり自分に自信のない主人公に対して厳しいことを言ったりもするが、いざと言うときには悩みに寄り添ってくれたりする。
たまに出る雄っぽい一面にきゅんきゅんさせたりなどする。
そしてオネエなのに何故か主人公のことを好きになったりする。
これは「何故」とか考えるタイプのものではない。
攻略対象の好感度を教えてくれるタイプの友人キャラに「何でこの人は好感度を教えてくれるんだろう」とか思っても仕方がないのと同じである。
そういうものだ。そういう存在なのだ。
そもそも性的趣向は人それぞれなので、この多様性の時代、わざわざ私がツッコむようなことではないだろう。
「でも、レイは好き好んで女装してるわけじゃないだろ。家の都合で、必要に駆られてしているだけで」
「今目の前に必要がなくなってからも趣味で男装してる人がいるんですけど」
リリアのツッコミを黙殺した。
私がそうだからといって、レイもそうだとは限らないだろう。私のような人間の方がレアケースの可能性もある。
……レイが今も女装している時点でお察しという気もするが。
「レイが幻惑の魔女だとして、『男に捨てられた』って設定はどうするんだよ」
「……」
リリアが黙って私を指さした。
違う。そうじゃない。
「ゲームでの話」
「怨念に取り憑かれていたとか何かじゃないですか?」
「雑」
あまりの雑さに感想まで雑になってしまった。
まぁそのあたりはゲームでは明かされなかったことだ。
私たちプレイヤーは推察することこそできるものの、答えを知ることはできないのである。
「それこそファンディスクが出せたらそこで明かされる設定だったのかもしれません。まだ謎が残る感じの終わり方でしたし」
それはそうかもしれない、と思った。
ロイラバ無印だって、フィッシャー先生関連のあれこれは匂わせこそあったものの、ファンディスクが出るまでは詳しく描かれなかった。
2も確かに、ゲーム内では魔女に関する細かい設定の掘り下げはなかったように思う。
プレイしているときは「まぁ敵だしこんなものか」と思っていたが――リリアの言う通り、今後掘り下げる予定であえて謎を残しておいたのかもしれない。
――それで評判が悪くなって売り上げが伸びず、ファンディスクを出せなくなっているようでは世話はないのでは。
やはり出し惜しみをしてもよいことはない。
「そういうわけで、レイちゃんはちゃんと更生させますから。魔女のポジション、空いてますよ」
「さっきまでの『ラスボスは男』理論はどこに行ったの?」
「エリ様は性別エリ様なんで」
この前から何だ、性別「エリ様」は。勝手に新たな性を作り出すのをやめてほしい。
「悪役よりは攻略対象の方がマシかな」
「わたし以外に攻略されるエリ様は地雷です」
リリアがきっぱりと言い切った。では悪役だなんだと言わずにさっさと隠居させてくれ。





