13.美意識の高い男の娘
「だって乙女ゲームですよ? 極端な話、モブ女に立ち絵作るくらいならモブ男に立ち絵欲しいってひと、結構いると思うんですよ」
それは、確かにと納得した。
男尊女卑というと少し違うかもしれないが、少なくともプレイヤーのほとんどがイケメン攻略対象との恋愛に胸をときめかせたくてプレイしているはずだ。
その場合の女性キャラと言うのは、せいぜい友達か当て馬的なライバルキャラがいいところで、パラメータを教えてくれるのも女友達より男友達のゲームが多いし、ライバルというのもあくまで攻略対象の好感度を極端に下げた場合に出てくるくらいのものだろう。
攻略対象の個別ルートでも、立ち絵があるモブは圧倒的に男キャラが多い。
もともと主人公であるプレイヤーをいわば接待するためのゲームなのだから、登場するキャラクターを出来るだけイケメンで統一したいというのも頷ける話だ。
そういうものだ。それが当たり前の世界だ。
だからこそ私も、モブ同然の悪役令嬢ではなく、攻略対象になろうとしたのだ。
ではそこで、主人公が倒すべきラスボスなどというやたら終盤に出番がありそうだったり、重い過去を抱えたイケメンを据えるのにぴったりのポジションが、女性である必要があるのか。
私がゲームを作る側だったとしたら――そこに、女キャラを据えるだろうか。
答えは、否である。
「もったいないですよね? せっかくのラスボスとかいう美味しいポジション、女の子にやらせるなんて。男だったら、隠しルートとか、ファンディスクの展開とかにもつなげやすいのに――わざわざ女の子にする必要ないと思うんですよ。事実ロイラバ2、無印より売れなかったぽいですし」
リリアの言葉に頷いた。
明らかな売り上げや数値を目にしたわけではないが……いつまで経ってもファンディスクの話が出なかったので、ファンの間では「そういうこと」なんだというのが共通の認識だったからだ。
そして、リリアの言いたいことが読めてきた。
ファンディスクが出なかったことによって、本来制作陣が意図していた設定が明らかにならないままになってしまっているのではないかと、そう言いたいのだ。
その闇に葬られてしまった設定というのが――ロイラバ2のラスボス、幻惑の魔女グレイシアが実は男だった、と。そういうことなのだろう。
「つまり、レイは」
「正真正銘、幻惑の魔女です」
リリアが真面目な顔をして頷いた。
彼女の言いたいことは理解できる。しかしどうにもひとつ腑に落ちず、私は首を捻った。
「でも、男の娘だよ? 需要あるかなぁ」
「男装女子が何か言ってる件」
大きなお世話だ。
だいたい男装の麗人は需要、あるだろう。こんなに女の子にきゃあきゃあ言われている私の現状をよく見てもらいたい。
「『男の娘』って言ったら確かに女性ウケより男性ウケしそうな感じがしますけど」
「だろ?」
「でもそこに『美意識の高い』をつけたら?」
「……それは話が変わってきたな」
美意識の高い男の娘、というか女装男子。
ものすごく見覚えがある。急に一見パッとしなかったり化粧っけがない原石系の女の子を素敵に変身させてくれそうな存在に思えてくる。
ビューティーアドバイザー的な役割をしてくれていた彼がいつしか主人公に惹かれていき、主人公が最初に憧れていた男にデートをすっぽかされたりなどしたあたりで「オレにしとけば?」とか言ってきそうな気さえしてくる。
枕詞一つでこうまで変わるものか。





