12.美味しいか美味しくないかで言えば
「エリ様、期待しててくださいね」
「何が?」
「我々第7師団には秘策がありますから!」
リリアがえへんと胸を張る。
秘策、と言われて、私の腰に抱き着いているレイを見下ろした。
わざわざ連れ来ているということは、レイがその秘策とやらに関係あるのだろう。
レイといえば魅了の上位互換、認識阻害だ。
今回の天下一武道会でそれをどう生かすか。たとえば、総力戦では味方の数を増やして見せるとか、だろうか。影分身的な要領だ。
もしくは逆に敵を別の姿に変えて見せて、敵同士で同士討ちさせるとか。
なるほど、使い道はいくらでもあるだろう。
第七師団、まったく絡みはなかったので就職先としてどうなのかは分からないが、少なくとも教会は王都のど真ん中にある。
十三に勝たれるよりはマシである。
「エリ様には、続編が始まるまでわたしの目が届くところにいてもらわないと」
「続編?」
「だってこのままエリ様が騎士団に入っちゃったら、ロイラバ2の攻略対象まっしぐらじゃないですか」
猫みたいに言うな。
まっしぐらという形容動詞、猫以外に使っているところを聞いたことがない。
リリアがにたにたと笑いながら、そっと私にしなだれかかってくる。
「それよりは? 先代聖女のお付きとか? そういうポジションで? 悪役としての本領を発揮してもろて??」
「悪役はレイに譲るよ」
レイの肩に手を置いて「ねー」と首を傾げて見せると、レイもよく分からなさそうな顔をして「ねー?」と同意した。
リリアが「今更生しようとしてる子に変なこと教えないでください!」と言いながらレイを私から引き離す。
「レイちゃん、先に第七師団のおじさんたちのところに行っていてくださいね~」
「うん、分かった!」
「騎士さまの言うこと信じちゃダメですよ~」
「うん! 騎士さま、『スケコマシ』だもんね!」
お前こそ何を教えているんだ、このトンデモお騒が聖女。
レイは非常に素直に頷いて、何度も振り返ってこちらに手を振りながら走って行った。
レイに手を振りながら、その背を見送るリリアの顔を見る。
同い年ではあるものの、何となくいつも妹のように感じていたが……そうしていると、少し大人びて見えるというか。
さすがにこれくらい年の差があると、きちんとお姉さんらしく接することができるんだなぁと、どこか感慨深かった。
大きくなって、という感じだ。
レイが角を曲がって行ったところで、リリアが言う。
にんまり唇で弧を描きながら、嬉しそうに私を見上げていた。
「レイちゃんが魔女、卒業しましたから。今空いてるんですよ、悪役のポスト」
閉口する。
前言撤回だ。何も成長していない。
そもそも魔女は「卒業」するものなのか? アイドルか何かと間違えていないだろうか。
まったく、彼女は私を悪役にしたいのか、善人にしたいのか。
ため息をついて、リリアを見下ろす。
「グレイシア以外にも魔女、いるかもしれないだろ」
「……それなんですけど」
私の言葉に、リリアが口を挟んだ。
先ほどまでの笑顔を引っ込めて、何やら神妙な顔をして私を見ている。
「今からわたし、エリ様の存在を否定するようなことを言いますけれども」
「何だよ」
「乙女ゲームのラスボスって、超美味しいじゃないですか」
言われて、考える。
出番は多いだろうし、悪役好きな女の子というのも一定数存在する。
そりゃあ美味しいか美味しくないかで言えば、美味しいだろう。
「そんな美味しいポジション、女の子なわけなくないですか?」
「え?」





