11.「リリアちゃん」
ついにチキチキ(略)天下一武道会当日となった。
なってしまった。
一応実況解説役を仰せつかったので、王族などやんごとなき皆様がいるVIP席に座っておくことになっている。
普通実況解説は別々の人間がやるべきなのでは。過重労働にもほどがある。
今回の天下一武道会、一対一での戦いでは明らかに強すぎる師団がいることから、各チームから一人ずつ戦っていくいわゆる団体戦のほかに「総力戦」というカテゴリが準備されている。
総力戦では参加する人数に制限がない代わりに、団体戦で「大将」に指定しているメンバーは参加できないというルールがあるのが特徴だ。
つまり、並外れた戦闘力を持っているような人間――もしくはほぼ人外――がいるようなチームと戦う場合でも、人海戦術による力押しで封じ込められる可能性があり、かつ一番の強者とは戦わなくても済むというメリットがある。
もちろんこちらも一番のエースを投入できないというデメリットはあるが……それを補って余りある場面も出てくるはずだ。
どちらの方法で戦うかはくじ引きで決まる。
最初から勝敗が決まっていてはつまらない。
特定のチームが大勝することがないよう、一応のゲーム性も考慮されているわけだ。
それでも十三や近衛が有利なことには変わりないだろうが……果たしてどうなることやら。
貼りだされたトーナメント表を眺めていると、ぱたぱたと駆け寄ってくるような足音が聞こえてきた。
「騎士さま!」
抱き着いてきた少女を受け止める。
受け止めてその顔を見て、少女ではなく少年だったことに気づいた。
相変わらず可愛らしい女の子に扮したレイが、にこにこと嬉しそうに微笑みながら私を見上げている。
教会のお世話になっていると聞いていたが、まだ女装はやめていないようだ。この国の信仰する神様とやらは、そのあたり理解がおありらしい。
「どうしたの、こんなところで」
「今日はね、聖騎士さまたちの応援なの!」
「わたしが連れてきたんですよう」
レイの後ろから、リリアが歩いて姿を現す。
聖騎士、というのは第七師団のことだ。
なるほど、それならば教会の許可が出るのも頷ける。しかも聖女の監視付きとあらばなおさらだ。
「リリアちゃんがね、一緒に行こうって」
「リリアちゃん」
思わず反芻してしまった。
あまり聞き覚えのない呼び方だったからだ。
学園はお貴族様ばかりなので、他のご令嬢がリリアのことを呼ぶとしても「ダグラスさん」や「リリアさん」が良いところだった。
リリアには私以外に親しい友人はいないようなので、そういった場面を目撃していないだけかもしれないが――「リリアちゃん」ときたか。何となく新鮮だ。
じっとリリアを見つめて、思ったことをそのまま口から出す。
「君、ショタコン?」
「な、なんたる言いがかり!!」
「こんな子どもにそんな風に呼ばせて喜んでるから」
「喜んでない件!!」
リリアが地団駄を踏んだ。
まぁ半分は冗談だが、レイは少女と見紛うような可愛らしい見た目をしている。
リリアは男性が苦手なようだし、これくらい中性的な方がよいのではないか。
いや、中性的の範疇からは少々はみ出しているような気もするが、それで言ったら私だって似たようなものだろう。
同じ教会の仲間なのだし、職場恋愛というかオフィスラブというのも人気のジャンルだ。
就職先で新しい恋を見つけてもらう分には、私は一向に構わない。
出来ればレイが犯罪にならない年齢になってから。





