5.イメージカラーが寒色系っぽい声
あれよあれよという間に、チキチキ(中略)天下一武道会の前日となった。
結局騎士団からは全十四師団中なんと十師団が参加するという。
それに加えて、西の国の騎士団と現所属である訓練場とを加えた、全十二チームで争奪戦を繰り広げることになる、らしい。
どんどんことが大きくなってきて、私としてはもはや他人事になりつつあった。
先日は王城に貼ってある天下一武道会の張り紙を見かけて「ふぅん。そんなイベントあるんだ。近くまで行ったら覗いてみようかな」とか思ってしまうレベルで他人事だった。
結局のところ優勝者が獲得するのはあくまで優先交渉権であって、私の身柄そのものではない。交渉が決裂することだってあっていいだろう。
そう考えて、9割がた傍観者になりつつあった。
もうお祭り騒ぎがしたいなら満足するまでやってもらって、その後できちんとビジネスとしての交渉をしてもらえればよい。
就活の一風変わった選考会みたいなものだ。脱出ゲームで一次選考通過、とか。
それを餌に就活生を釣っておいて、実際そのあと二次選考以降は普通の面接がある。得てして世の中そういうものだ。
「バートン」
ぼんやり会場の国立競技場を眺めていると、イメージカラーが寒色系っぽい声がした。ゲームでは彼のイメージカラーは赤だったが。
振り向くと、アイザックが書類を片手に歩いてきて、私の隣に並ぶ。
「いよいよ明日だな」
「うん。何で君、まるで運営側みたいなポジションにいるんだ?」
「訓練場の手伝いだ」
アイザックが例のポーズで眼鏡の位置を調整する。
はて。彼と訓練場の教官たちには直接の接点はなかったように思うのだが。
首を捻る私に、彼が続ける。
「僕の方からサポートを申し出た」
「え?」
「この大会……訓練場がお前との優先交渉権を手に入れることが最も望ましいと判断した」
彼の言葉に、目を瞬く。
それは私だって同じ考えだが……彼には特に就職先の相談をしていなかった。
しかし彼は、まるで私の心中を見透かしているかのように続ける。
「公爵家から通えることがお前にとっては重要だろう。合わせて怪我や危険が少なければなお良いはずだ」
「そう。そうなんだよ……!」
彼の言葉に力強く頷いた。
そうなのだ。私にとって重要なのはそれなのだ。
誰が一番強いかとか、一観客として楽しめるのであればそれなりに面白い試みだとは思うのだが、就職先選びのための情報としては正直言ってどうでもいいのである。
何故あの大人たちは揃いも揃ってそれを理解してくれないのか。週刊少年漫画に思考を毒されていやしないか。
「訓練場であれば正規の騎士ほどの制約はない。仮に結婚したり子どもが出来たりしても続けやすい職場といえる」
「私、別に嫁に行くあてはないんだけど」
「……出来るかもしれないだろう」
アイザックがしばらくの沈黙ののちに、言った。
彼もその可能性が限りなく低いことは理解しているらしい。
「将来何が起こるか分からない。複数のお前の人生設計に基づき検討を重ねた結果、訓練場が最も適しているという結論に至っただけのことだ」
「アイザック……」
不覚にも感動する。
まさか彼が私の将来のことまでそんなに真剣に考えて、訓練場にまで協力してくれるとは。あまりにも面倒見がよい。来世のために徳を積んでいるとかでもない限り説明がつかないレベルだ。神様仏様アイザック様様である。
持つべきものは心友……いや、神友だな!!
出来ればその検討はこんなことになる前に済ませておいて私に耳打ちしておいてほしかったが。
何故リリアに相談してしまったのかと、過去の自分を締めあげたい衝動に駆られる。まぁあれは相談というか半分愚痴だが。





