2.騎士団随一のホワイト師団
コミカライズ1巻発売日になりました!
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Twitterで1話まるごと読めたりするのでぜひご覧ください。
また書籍3巻も7/10に発売中です! どうぞよろしくお願いいたします。
「何でこんなとこに」
「これ、騎士団の回覧書類〜」
師団長が団員に持たせていた紙の束をグリード教官に押し付ける。
訓練場は一応は騎士団から独立した組織という扱いだが、掛け持ちの騎士や退役して訓練場に勤務している者も多くいるし、実情は下部組織のようなものだ。
備品も騎士団の総務部経由で購入している。何より訓練場の目的は騎士になる人材の輩出だ。切っても切れない関係である。
聞いた話によると教官の給与体系なども騎士団にならっているとか、いないとか。バイトの私には縁のない話だが。
「ほらここ、ちゃんと見といてくださいよぉ。『団服を洗濯に出す時にはポケットの中身を必ず出しておいてください』って。訓練場から回ってくるの、結構多いっておばちゃんたちぼやいてましたよ」
書類の該当箇所を指差す師団長。
グリード教官は気まずそうに押し黙っていた。これに関しては私も前科がないわけではないので、コメントは差し控える。
「それより、話はきかせてもらいましたよ」
いつも目を細めてへらへらしている師団長の纏う雰囲気が、ほんの一瞬、真面目なものに切り替わる。
グリード教官も書類から視線を上げて、彼を見た。
「バートンちゃんはウチでもらいまーす」
「は?」
「訓練場だもんねぇ。優秀な人材はきちんと、騎士団に輩出してもらわないと」
「おいおい、勝手なこと言うな」
グリード教官が師団長との距離を詰める。
グリード教官の方が随分ガタイがいいが、そこは現役の師団長、凄まれても糸目を崩さなかった。
どうでもいいが糸目キャラというのは何故ああも一筋縄ではいかない強キャラ感があるのだろうか。逆に弱い糸目キャラを思い浮かべる方が難しいくらいではなかろうか。
そもそも前が見えているのか、それとも見えていないのか、そのあたりも謎である。
そういったミステリアスな部分が強キャラ感を醸し出すのに一役買っているのかもしれない。
「そっちは人手足りてんだろ」
「量より質だよねぇ」
師団長が振り向くと、一緒にいた団員が首を縦に振る。
その顔に見覚えがある。確か、警邏のシフト編成の担当だったか。
「夜勤が出来て子どもが熱出して休んだ奴の代わりにシフト入れる人材ほどありがたいものはありませんからね」
「その分はもちろんちゃーんとお手当て付けとくからねぇ」
師団長がダブルピースをして指をわきわきさせていた。
騎士団随一のホワイト師団と一部の騎士の間で非常に人気のある第四師団、そのあたりのフォローアップが非常にきちんとしている。
小さな子どものいる既婚騎士が休みを取りやすい体制はもちろんのこと、その分負担が偏りがちな単身者へは十分な手当てや有給買取、寮を利用する場合の補助金制度などがあり、不満が生まれにくい労働環境が整っているのだ。
もはや現代日本の企業よりも充実している。経営者の皆様にはぜひとも見習ってほしいものである。
「だいたい規則はどうすんだ」
「規則ぅ?」
グリード教官の言葉に、師団長がわざとらしく首を捻る。
にやにやと口元に笑みが浮かんでいて、どうやら今は本当に目を細めているらしいことを理解した。
「僕、騎士団に勤めて随分経つけど……そんな規則、知らないなぁ」
「はぁ?」
「明文化されてない規則ってさ……つまり、そんなものないってことなんじゃない?」
「すっとぼけやがって」
グリード教官が忌々しげに舌打ちした。
糸目キャラに標準装備されている飄々とした雰囲気と抜け目のなさを兼ね備えたこの師団長が言いそうなことではある。
「お前が良くても総帥が何て言うか」
「ま、そこは追々、何とでもなるでしょ。……で?」
師団長は軽く肩を竦めてから、私に向き直った。
そして手のひらを開いて見せたかと思うと、指を一本一本折りながら説明をしていく。
「夜勤の翌日は絶対に休みだし、希望休もあり、年間休日120日以上保証、長期休暇家族休暇あり、残業は基本させません!」
さすが、騎士団随一のホワイト師団の師団長。
私のようなさほど就労意欲の高くない人間にどこをアピールすれば響くかをよく理解している。
とんでもない愛妻家で、早く家に帰りたいがあまり師団の労働環境の大改革を一人で行ったという実績のなせる技だろう。
「王城の食堂利用可能、昇給アリ、優秀な騎士には報奨制度もあり、それに何より……」
師団長が私に一歩歩み寄ってきて、そっと耳打ちする。
「訓練場よりお給料、高いよ~」
「んなもん危険手当抜いたらほとんど変わらねえだろ」
グリード教官が突っ込みを入れた。
教官も元は騎士団の騎士である。そのあたりはよく知っているところのはずだ。
いくらやさしい世界の平和な国といえど、騎士として勤務するならば危険はつきものだ。
特にこの前の魔女騒動など、有事の際には流石にホワイトだなんだと言っていられなくなる。
その分の手当があるのはある意味で当然だろう。
だが逆を返せば、訓練場で働く限りはそのような危険やトラブル時の緊急出勤とは無縁とも言える。
それはやはり、私にとってはメリットだ。
この下あたりに新作(長編?中編?と短編)のリンクもありますので、気が向かれたらぜひどうぞ。





