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モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
第2部 第6章 魔女編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

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閑話 アイザック視点(1)

「モブどれ」3巻の書籍発売日が7月10日に決定いたしました!

本日よりご予約も開始となっております!

そしてコミカライズ単行本も7月15日に同月発売することとなりました!

こちらもご予約受付中だそうです!!


詳しい情報を活動報告にUPしましたので、ぜひご確認ください。

表紙のイラストも載せさせていただいております。

表紙だけでも見てください。ほんとに。



魔女編の閑話、アイザック視点その1です。

全部で2話の予定です。


 騎士団が主催する食事会に、父の名代として参加することになった。


 父の代から、ギルフォード家は不必要な社交は切り捨てている。

 だが、国を運営する上で騎士団との繋がりというものは侮れない。

 参加する貴族の経済状況や力関係がよく理解できるうえ、不自然に騎士を私設の傭兵団として迎える者は最悪の場合、謀反を考えていることもある。

 次期宰相を志す身の僕にとっては、情報収集の場としても有用であることは間違いない。


 ただ……今回僕が名代を買って出た理由には、騎士団と関わりの深い彼女の……エリザベス・バートンの情報が聞けるかもしれないと、そういった下心が含まれているのも確かだった。

 学園での彼女のことはよく知っているが、訓練場や騎士団でのことにはあまり詳しくない。

 伝え聞く情報はいつものことながら真偽の怪しい物が多く、どのように過ごしているのか、常々気になっていたのだ。


「やあやあ、ギルフォード家の。今日はお父上はご欠席ですか」

「……ええ」


 禿頭の、小太りの男に声をかけられた。その顔には見覚えがある。何度か父と共に参加した会合で見かけた、歴史ある伯爵家の当主だ。


 よく言えば保守派、言葉を選ばずに言えば前時代的で歴史を重んじるものの、この男の代には目立った功績もない。

 どちらかといえば、領地経営の杜撰さという点で記憶に残っているくらいだ。


 男はわざとらしく髭を撫でつけながら、僕の顔を覗き込む。


「ギルフォード伯は宰相という立場でありながら、伝統というものを些か軽んじられる傾向にあるようだ。何とも嘆かわしい」


 男の言葉を聞き流す。

 おそらく新興の伯爵家でありながら宰相という重職に就いている父のことが気に入らないのだろう。


 伝統と由緒を重んじる古くからの貴族にはそういった考え方をする者も多い。

 問題は、その中で本当に国のためを思って伝統を大切にしている者は一握りで、実際は自己顕示欲を満たしたいだけの人間が大半だというところか。


  伝統よりも今現在の自分の領地のことを気にかけるべきだと言ってやりたいところだが、今日の僕はあくまで父の名代だ。僕の不始末は父の不始末になる。

 自分で責任も取れないのに、一応は目上にあたる人間に対して口答えをするほど恥知らずではない。


 下手に角を立てるよりも、聞き流してしまうのが最適だろう。


「お父上のようなやり方で納得する貴族ばかりではありませんからな。ご子息にはぜひともその辺り、よくご理解いただきたいものだ」

「……はぁ」

「そちらの家はまだ貴族になって日が浅いですからな。貴族社会に慣れていないのも無理はない。さぞ社交にも不慣れでしょう。何、すべて我々にお任せいただければ悪いようにはしませんぞ」

「…………」

「……愛想がないところもお父上譲りですな。やはり新しい家だけあって、誰も貴族としての振る舞いを教える者がいないのでしょう。政治というものをとんと分かっていらっしゃらない」


 男が嫌味ったらしく肩をすくめて頭を振る。

 父のやり方は徹底的に実利と合理性を重視している。家柄や人と人との関わりを重んじる人間には、強引に見える部分もあるだろう。僕も父のやり方全てに賛同しているわけではない。


 だが少なくとも、僕の前でにやにやとしているこの男と比べて……正しいことをしているのは確かだ。

 それなのに、ただ家柄が新しいというだけで、貶められなければならないのか。


 領地を放っておいて、自分は王都でさぞ私腹を肥やしているのだろう。油ぎった頭とたるんだ腹を見下ろして、拳を握りしめた。

 

「やあ、アイザック」


 聞き慣れた声がした。

 顔を上げると、バートンが僕に向かってにこやかに片手を上げていた。


 一瞬幻覚でも見ているのかと思った。

 自分なら幻覚くらい見るかもしれない、という危惧がある。

 彼女が西の国に行っている間など、幻覚まがいの夢にしょっちゅう彼女が出てくるものだから困っていたくらいだ。


 だが今回はどうやら夢でもなければ、幻覚でもないらしい。

 騎士団の制服姿で、愛想よく微笑んでいる。


 彼女の情報を得られればと思って参加したのは確かだが、まさか本人と出くわすことになるとは思わなかった。


 しかもその後ろには正装したロベルトまで従えている。

  何故二人で一緒にいるのだろう。婚約を解消してからしばらく経つというのに、何かと一緒にいるところをよく見かける気がする。


 ロベルトの方が彼女より背が高いし、鍛えているだけあって身体つきがしっかりしている。

 並んでいると普段よりも彼女が華奢に見える気がした。

 もともと婚約していたくらいだ、身分の釣り合いも取れている。


 それに比べて僕は……この男に好き勝手なことを言われても、言い返すことも出来ないで……ここにいるのか。

 情けない姿を彼女に見られたことが気まずくなり、そっと視線を逸らす。


 すると僕に向かってべらべら話していた男が彼女たちを一瞥し、ふんと小馬鹿にするように鼻を鳴らした。

 その態度に、頭に血が昇る。

 僕のことはいいが、彼女のことを馬鹿にするのは――


「おや、どちらの所属かな? ずいぶんと仲が良さそうですが……下級の騎士などと親しくされるのは次期宰相として得策とは」

 

 ばっしゃーん。

 

 それは瞬く間の出来事だった。

 目の前で起きたそれがあまりに衝撃的で、一瞬思考が完全に止まってしまう。


 視線を禿頭の男に向ける。

 男は頭から水をかぶって、ずぶ濡れになっていた。

 視線をバートンに移す。

 空になったグラスを手に、すました顔で立っていた。


 しんと一瞬、その場が静まり返る。

 男の髪と髭から、ぽたり、ぽたりと水滴が落ちる。それを皆、黙って見つめていた。


 沈黙を破ったのは、バートンだった。

 彼女はにこりと愛想よく笑って、言う。

 

「失礼。手が滑った」

 

 僕やロベルト同様、ただ驚きに目を見開いていた男の顔が、見る見るうちに怒りで赤くなっていく。

 男が口を開いた。

 

「き、貴様、何をッ」

「ですから、手が滑ってしまいまして。そうですよね? ロベルト殿下」

 

 彼女が背後に控えていたロベルトを振り返り、彼に目配せをする。

 ロベルトは彼女の目配せから意図を汲み取ったのだろう。軽く頷くと、凄みのある表情で禿頭の男を見下ろした。


 禿頭の男はそこでやっと、バートンの背後に立っているのがどこの誰かを理解したらしい。

 みるみるうちに顔色が青ざめていく。

 

「ああ。私がぶつかってしまった」

「ろ、ロベルト、殿下……」

「どうした? 顔色が悪いようだが?」

「い、いえ、その……失礼します!」

 

 バートンとロベルト、2人から圧を掛けて見下ろされて身の危険を感じたのか、禿頭の男はまるで逃げ出すようにさっさと会場から出ていった。


 僕はその一部始終をただ他人事のように眺めていたが、やがてはっと我に返った。

 そして咄嗟に、彼女の肩を掴んで詰め寄る。

 

「お前、何を」

「言ったろ、手が滑った」

「嘘をつくな」

「腹が立ったから引っ掛けた」

「正直に言えばいいというものではない」

 

 完全に混乱している僕をよそに、彼女はべっと舌を出して、僕の言葉を受け流そうとする。


 あの日のことを思い出した。

 僕を殴っていた奴らを、軽々と放り投げて見せた彼女のことを。

 そして……僕の兄に腹を立てて、その婚約者たちをたぶらかして見せた彼女のことを。


 あの時から、何も変わっていない。


 彼女は自分が下級の騎士だと言われて腹を立てたのではない。

 彼女はおそらく僕とあの男の会話を聞いてから、声をかけてきた。僕が不当な扱いを受けていたことに怒ったのだ。

 怒って、くれたのだ。

 

「俺も聞いていて腹が立った。あんな奴の相手をする必要はない」

「そうも行くか」

 

 ロベルトの言葉に首を振る。


 そうしたいのは山々だが……今の僕にはまだ、それだけの力がない。

 まだ何も成し遂げていないという意味では、僕自身の実力を裏付けるものは何もない。あの禿頭の男と大差ないのだ。


 今の僕は、父の威を借りたただの名代に過ぎない。悔しいがそれが事実だ。

 

「あいつの言うことにも一理ある。ギルフォード家はまだ新興だ。ある程度は古い貴族との繋がりも」

「何だよ、君。私たちじゃ不服なのか?」

 

 あっけらかんと投げかけられたバートンの言葉に、思わず顔を上げて彼女の顔を見つめてしまう。

 

「王家と公爵家でダメなら他にどうしろっていうんだよ。そりゃあロベルトは頼りないかもしれないが」

「うっ……すみません」

 

 彼女がロベルトを親指で示すと、彼は頭を掻きながら情けなく眉を下げた。


 彼女がバートン公爵家の人間であることも、ロベルトが王家の人間であることも。

 もちろん理解しているし、それを忘れたことはない。


 だが、どうしてだろうか。

 この場でそれを言葉にされると、二人との間に何か、壁のようなものを感じる気がしてしまう。


「にしても、『私』だってさ。聞いたかアイザック」


 そんな僕の心中など知る由もない彼女は、普段学園で接するのと変わりない態度で、茶化すように言う。

 ロベルトが困ったように眉を下げながら頬をかいた。


「隊長の真似をしてみたのですが、俺がやると締まりませんね。隊長に『殿下』と呼ばれるのも……ずっとそんな言葉遣いで話されたら、俺は舌を噛んで死ぬかもしれません」

「一応言っておくがそれが普通なんだからな」

「ですが……貴女の隣に立つために、必要になることもあるかもしれませんから」

「…………」

 

 ロベルトが幸せそうに微笑んで、彼女を見つめる。

 その表情からは彼女を愛しく思っていることが傍目にも伝わってきて、胸がざわついた。

 

 彼女の、隣に。

 そのためにロベルトは、慣れない王族らしい振る舞いもしてみせた。


 では、僕は?


 僕が彼女に並び立つためには……今のままでは、足りない。

 ギルフォード家を継いで、宰相職に就く。

 それでもまだ、足りないくらいだ。


 今回のように、僕の家が新興貴族であることで不当な扱いを受けることは避けられない。


 そんな時に……頼る後ろ盾というものが、あるとするなら。

 僕は彼女に選んでもらうためなら、できることは何でもするべきなのだろう。


 例えそれが……バートン公爵家や、ロベルトを利用することであっても。

 

「……いいのか」

「ん?」

「お前たちのことを利用するかもしれないぞ」


 胸裏に過ぎる罪悪感をそのまま口に出すと、彼女はふっと不敵に口角を上げて、僕に向かって笑って見せた。


「君に利用されるなら本望だ」

「…………また、調子のいいことを」

 

 眼鏡の位置を直すふりをして、彼女の眩しいほどの笑顔から、目を逸らす。


 ふざけている時のような軽い口調だが……僕がその言葉を本気で捉える可能性を考えていないとは思えない。

 僕になら、と……何割かは本気でそう思っているのだ。

 それはきっと、僕への信頼があるからだ。

 ギルフォード家でも、次期宰相でもなく……僕自身への。

 

「バートン」

 

 彼女の名前を呼んだ。

 ブルーグレーの瞳が、まっすぐに僕を見つめている。


 彼女が僕を見てくれることが、嬉しい。

 僕のために怒ってくれたことが嬉しい。

 僕を信頼してくれていることが嬉しい。


 だが、それを伝えようとしても、「ん?」と軽く首を傾げてこちらを覗き込む彼女の視線に射抜かれてしまうと、途端に言葉が上手く出てこなくなる。

 鼓動ばかりが早くなっていく。気ばかりが焦っていく。


  後ろでロベルトがじっとこちらを見ているのも相まって、顔が熱くなってきた。

 耐えきれずに視線を逸らし、しばらく言い淀んだ後で、何とか声を絞り出す。

 

「……ありがとう」

「うん」

「ロベルトも」

「ああ」

 

 彼女が鷹揚に頷く。

 何故だか自慢げなその表情に、ふっとつい笑みが漏れた。

 

 彼女は「親友なのだから当然だ」とか、ただそう思っているのだろう。

 今はまだ、それでいい。

 今は……まだ。

 

「これからも力を借りるかもしれないが……よろしく頼む」

「水臭いな。親友だろ、私たち」


  彼女が僕の背中を叩く。

 そしてふぅと息をついて、どこか安心したように口元を緩めた。


「これで少しは君に借りを返せたかな」

「借り?」

「いつも面倒見てくれているからね。たまには私が助けたっていいだろ」

 

 その言葉に、思わず目を見開いた。

 

 借り。

 僕はただ彼女のためにと思っていただけだが……彼女はそう捉えていたのか。


 そんなことを考えたことはなかった。

 だがもし、僕に借りがあると、彼女が思っているのなら。

 

 しばらく沈黙して、小さく答える。

 

「……返さなくていい」

「ん?」

「返さなくていい」

 

 彼女がきょとんとした顔で首を傾げた。

 しばらく目を瞬いてから、やがて感心したように、そして少し困ったように笑いながら、肩をすくめた。

 

「君って本当に面倒見がいいな。そんなに私のこと甘やかしてどうする気だ?」

「いつかまとめて返してもらう予定だ」

「怖いこと言うなよ……」

「……冗談だ」


 また眼鏡の位置を調整するフリをして、目を逸らす。


 もし僕に借りがあると思ってくれているのなら……いつか、時が来たら。

 その時に、僕を選んでくれれば。

 僕は……それだけで、いい。



 ◇ ◇ ◇



「そういえば、坊ちゃま」


 僕のジャケットを受け取った執事が、揉み手で僕を見上げる。

 この執事は人によって態度を変える上に、仕事の精度は高くない。

 近頃は僕が爵位を継いだら暇を出そうと考え始めていた。


「先日ご不在の時、ご学友が訪ねていらっしゃいましたよ」


 ご学友、と言われて最初に頭に浮かんだのは、バートンの姿だ。

 だが僕はそれを頭から振り払う。

 彼女が約束もないのに僕を訪ねてくることなどないだろう。勝手に都合の良い妄想をして何になるのか。


 しかし、彼女以外にわざわざ屋敷まで来るような友人がいるかと言われると、心当たりはなかった。

 タイを緩めながら、問いかける。


「誰だ」

「バートン公爵家の、ほら」


 ぴたりと動きを止めた。

 いや、動きだけでなく思考もすべてが一時停止した。


 は?

 バートンが?

 僕を?

 約束もしていないのに?

 家までわざわざ、訪ねに来た?


 そう考えると、心が浮つくのを止められなかった。

 そんな自分を自覚してしまい、頬が熱くなる。


 どうせ宿題でも写したかったのだとは思うが、理由などどうでもよかった。

 約束もなく家を訪れるくらいに親しい仲だと、彼女が思ってくれているのであれば……それはとても、幸せなことだ。


 だが、せっかく彼女が訪ねてくれたのに不在にしていたのは残念だ。

 二人きり過ごせるチャンスだったのに、みすみす逃してしまった。


 バートンの顔を思い浮かべる。

 僕の名前を呼ぶ声を思い浮かべる。


 今度訪ねてくれるまでに、この浮ついた気持ちが顔に出ないよう、練習しておかなくては。



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― 新着の感想 ―
[一言] うっ…! か、かわいい…
[一言] アイザックの純粋な愛にいつも癒されております。 自分の至らなさを悔しく思い努力できる彼の人間性をたいへん好ましく思います。 アイザァアアアアアアアアアアアアック!!!!!!! かわいいなお…
[良い点] アイザックもロベルトも可愛すぎる! そしてエリザベスに欠片も伝わってない感じがたまりません…!
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