43.レースが似合う顔面だ
女の子についていくと、手芸用品を置いている店にたどり着いた。
道中お母さんに聞いたところによると、女の子の新しい洋服を作るため、生地を探しに来たのだという。
手作りなんてすごいなぁと思ったが、既製品の子ども服というのがそもそも少ないとのことだ。
この世界の不器用なお母さんはどうしているのだろう。
店内をぶらつきながら、後ろをついてきていた殿下を振り返る。
ひとつの棚の前で、殿下が立ち止まっていた。
何を見ているのか覗き込むと、棚に飾られた糸の傍に、見本として繊細なレースのコースターが飾ってあった。
殿下の横顔とコースターを見比べ、さすがは美少女と見まごう美少年、レースが似合う顔面だと感心する。
「鈎針編みのレースですね。気になりますか?」
「いや……ずいぶんと精緻なものだと思ってね」
「難しい言葉を使うね、坊ちゃん」
店の奥から出てきたおばあさんが、殿下に話しかけた。このあたりで日向ぼっこをしているのを何度か見かけたことがある。ここの店主だったのか。
「それは初心者向けの編み図だから、ちょっと練習すればすぐに出来るようになるよ」
「そうなのか?」
意外そうに呟き、殿下はまじまじと見本品を眺めている。どうやら気になるらしい。目からキラキラが放たれている気さえする。
こういう分かりやすいところを見ると、チョロベルトと兄弟なのだなぁと思う。
「マダム、これを作るのに必要なものを適当に見繕ってくれるかい。一式頂くよ」
「え? ……騎士様はこっちのほうがいいんじゃないかい? この、針でひたすら羊毛をぶっ刺すだけの……」
「どうして私がやると見るや、物騒なものを勧めてくるのかな」
贈り物だよ、と笑うと、おばあさんは途端にやる気になって準備を始めた。大きなお尻を振りながら、狭い店内を行ったり来たりしている。
「ああ、すぐに飽きるかもしれないから、他にも人気のものがあれば入れておいて。お代はこれで足りる?」
忙しなく動き回るおばあさんに呼びかけるも、どうやら聞こえていないらしい。
結局抱えるのも難儀なほどの包みが出来上がるまで待つ羽目になった。さらには夢中でレースを眺める殿下にも聞こえていなかったようで、「行きますよ」と言っても反応がなく、半ば引きずるように店を出ることになる。
ついでなので、女の子の洋服に使う布のお代もこっそり払っておいた。「大きくなったらけっこんする」のお礼である。多めに渡しておいたので、きっと足りるだろう。
まだ布を見てあれこれ話している母娘に別れの挨拶をし、殿下を引きずりながら馬へと戻った。
ブクマ、評価、感想ありがとうございます!
予想よりも早くブクマ数が金銀のポケ○ンの数を超えたので、困惑しつつもとても嬉しいです!
感謝の気持ちを込めまして、来週また1日2回更新をやろうかなと考えています。
ちゃんと(覚悟を)決めたらまたお知らせしますので、どうぞお待ちくださいませ~





