番外編 魔女騒動の後に(3)
魔女騒動が一件落着した後の番外編をUPします。
時系列としてはエピローグより後です。
マーティン視点です。
またついでのご報告ですが、気づけばポイントが4万ポイント、ブクマが1万を超えていました……!
いつもブクマ・評価・感想・マシュマロ等々での応援ありがとうございます!!
近々ではレビューもいただいていまして、感謝感謝でございます。
お礼に活動報告に小話をUPしました。近況報告もちょっとだけ書いてあります。
本編とは直接関係ありませんが、よろしければご覧ください。
こちらもマーティン視点、西の国にエリザベスたちが行っている間のお話です。お兄様が出てきます。
その日も殿下の命で、あいつを探しに行くことになった。
すっかり慣れてしまった気配を探る。
感じ取った気配の方へと歩を進めるうち、違和感が頭をよぎった。
いつもならこちらに気取られた途端に掻き消えるはずの気配が、いつまでも残ったままだったのだ。
何かがおかしい。
それとも、何か企んでいるのだろうか。
訓練場の教官小屋横の空き地に佇む彼女の姿を見つけた。
その姿に、息を呑む。
気配の読み合いをするでもなく、普通に現れた。
そんなことはあまりに異例で、自分は立ち尽くしたままで呆然と彼女を見つめることしかできない。
「やぁ、マーティ」
彼女が片手を上げて自分に挨拶をする。
その立ち姿はどこか気だるげで、これから手合わせをしようという人間のものには見えなかった。
ひどく当たり前のように自分に歩み寄ってくる彼女を前にして、やはり何と言っていいか分からない。
「また、殿下の呼び出し?」
へらへらした顔で問いかけられた。
そこで初めて、彼女をただただ凝視してしまっていたことに思い至る。
何か答えを絞り出さなければと、必死で脳みそを回転させる。
喉の奥から、言葉を捻り出した。
「……しますか?」
「ん?」
「手合わせを」
何を口走っているのだろうか。
自分でもおかしなことを言っている自覚はあった。
気配の読み合いだって、手合わせだって、もともとこいつが勝手に始めたことで、自分は付き合わされているだけで。
自分はむしろ困っているというか、迷惑しているくらいで。
それなのに、何を。
内心汗をかくやら歯噛みするやら、自分のコミュニケーション力の限界に頭を抱えていると、彼女はふっと口元を緩めて首を横に振った。
「うーん……今はいいかな」
「……え?」
「最近新しい鍛錬仲間を見つけてさ。だから手合わせとかはそっちで満足してるというか」
……は??
は??????
脳に言葉の意味が入ってこない。
しばらく彼女の言葉を、頭の中で反芻する。
新しい鍛錬仲間?
満足している?
だから、もういいと?
今まで散々、付き合わせておいて?
他に相手が見つかったから、もういい、だと?
ぷつん、と頭の中で何かが切れる音がした。
ずかずかと無言で彼女の隣を横切って、教官小屋に近づく。
外に置いてあった模造剣を三本手に取って、そのうちの一本を彼女に向かって突き出した。
「……エリザベス様」
「ん?」
「剣を」
「え?」
「取ってください」
彼女はきょとんとした顔で、自分の顔を見た。それから剣を見て、もう一度自分を見る。
そうして驚いた顔をしていると、年相応に見える気がする。
まぁ中身は悪餓鬼のまま成長している気がしないが。
隠れんぼだと言って自分を置いて帰った時から変わっていない。
自分勝手で、振り回されて――嫌になる。
「マーティ?」
「いつも組手ばかりですから」
彼女に剣を押しつけて、自分は二本の剣を、両手に構えた。
構えを取った自分の姿を見て、彼女の纒う空気が一瞬で切り替わる。
いつもの手合わせの時の彼女と同じ、ぴんと張り詰めた雰囲気に……自然と口角が上がった。
「こちらなら、飽きさせませんよ」
◇ ◇ ◇
何十回と剣が交差した。
飛び込んできた彼女を左手の剣で受け、右手の剣を鳩尾に打ち込む。
吹っ飛んだ彼女が、受け身を取って地面をごろごろと転がり、土を削って着地した。
完全に当たったと思ったが、間一髪で芯を外された。
彼女が立ち上がって、こちらに向き直る。剣を構えていなかったので、自分も構えを解いた。
彼女は興奮した様子で瞳を輝かせて、自分を見た。先ほどまでの脱力感はどこへやら、だ。
「君、めちゃくちゃ強いじゃないか!」
「……それは、どうも」
「何で今まで隠してたんだよ!」
「…………」
別に隠していたつもりはなかった。
騎士は基本的に剣一本で戦うものだ。双剣での戦いは祖父に教わったもので、普段は使わない。このことを知っているのは近衛の師団長くらいだ。
強いと言っても、彼女が全力でないことは理解している。まだきっと、加減されている。
それでも、双剣を構えた自分の力は、彼女を驚かせるには十分だったようだ。
そもそも彼女とは組手ばかりだった。
……いや、初めて後ろを取られた時には、短剣を突きつけられたこともあったか。
それは組手でも十分に、彼女の要求を満たせたからだ。
だが……今は違う。
彼女の手合わせの相手には、武器を持たない自分の力では足りなくなってしまった。
薄々理解していた。最近実力の差が開いていることに。あの頃とは違う。
多少の手加減はしてもらっていたとはいえ……ある程度は実力が拮抗していた、あの頃とは。
それが悔しかった。
どんどんと、置いていかれるような気がしていた。
だからつい、年甲斐もなくムキになってしまった。
散々付き合わせて、こちらを本気にさせておいて……今更、他の相手が出来たからと、あっさり見切りをつけるなんて……そんなもの、腹が立って当然だろう。
執着じみた感情を抱いている自分が少々馬鹿らしくなる。
こんなことを考えているなど、とても本人に言えたものではない。
何とか、それらしい言い訳を絞り出す。
「女性相手に、剣を抜くものではないと」
「蹴っ飛ばしはするのに?」
「…………」
速攻で返り討ちにされた。
嘘は苦手だ。それが得意分野である彼女に敵うはずがない。
彼女がにやりと笑って自分を見上げる。
その顔は……いつもの悪戯小僧めいたものだった。
「いいね。楽しくやれそうだ」
彼女の笑みに、自分もついつい口元が緩む。
適当で、雑で、粗暴で、いつも人を食ったような態度で余裕ぶっていて、そのくせ妙に子どもっぽくて。
いつまで経っても悪ガキじみたことばかりして、自分を振り回して。
本当に嫌になる。付き合いきれない。
だが……こいつはこうでなくては、と思った。





