64.まるで私が悪いみたいじゃないか
「もう、離れたくないって。ずっと一緒がいいって……それだけ、だったの」
レイがまた俯く。
彼女のずいぶん小さな頭が、戸惑いがちに揺れた。
「でもね、ちょっと……ちょっとだけ……おかしいって思ったのも、ほんとなんだ」
ぎゅっとレイがスカートを握る指に力を込めた。
その指先は力が入りすぎて、青白くなってしまっている。
「街の人、様子、なんかおかしくて。騎士様も、やっぱり、変で」
レイの声が震えていた。
泣き出しそうなのを堪えて……それでも一生懸命に、己の罪を告白しようとしていた。
レイのしたことは確かに結果的には多くの人間を困らせた。
だがそれは、誰かを困らせようとしてのことでも、誰かを傷つけようとしてのことでもない。
加えて、リリアと違ってレイは聖女……この場合は魔女か? についての知識も、周囲のフォローも得られる環境にはなかった。
自らもよく分からないうちにその力が発動してしまった結果起きたことである。
子どもだから全て許されるというものでもないが……かといって、レイを責められるものでもないだろう。
それなのにレイは、本当は知らなかったフリをしたままでも誰も気がつかないかもしれないことだが、それでも正直に包み隠さずに、すべてを話そうとしていた。
その様を見ていると……さすがの私にもちくちくとわずかばかりの罪悪感が芽生えてくる。
こんなに小さい子がきちんと自分なりに反省して謝罪をしようとしているのに、のらりくらりと往生際悪く……大人としてこれでいいのだろうか。
いや、だがこの件は別に、私が悪いというものでは。
「でもね……よく分かんなくて、怖くて……知らないふり、してたの」
リリアの冷たい視線が私の頬に刺さっている。
無言なのに「女たらし」という非難の声が聞こえてくる気がする。目というか顔が口ほどに物を言っていた。
確かに私は女たらしかもしれないが、それには「たらす側」と「たらされる側」の協力が不可欠だ。
たらされる側にも問題はあるのではないか。そこの責任は相互負担すべきではないのか。
そんなことをぐるぐる考えている私の目の前で、レイの瞳からぽろりと一粒、涙が溢れた。
「だから、ごめんなさい」
分かった。
もういい。
認める。レイが探していたのは私だ。そこに、ほんのわずかではあるが、今回の一件の0.2%くらいは、私の日頃の行いが原因として関係していた。
それは、認める。
しかも相手は子どもだ。自分で判断して責任を取れる大人ではない。
私の行動が悪影響を及ぼしていたのだとすれば、それについては謝罪しよう。
だから、頼むからこれ以上私の罪悪感が増すようなことをするのはやめてくれ。
「騎士様、街の人も、みんな、みんな、ごめんなさい、ごめん、なさいっ!」
レイがついに、大声で泣き出した。
ごめんなさいと繰り返しながらわんわん泣き喚くレイに、勘弁してくれ、と心の底から思った。
こんなもの、まるで私が悪いみたいじゃないか。
……いや、まったく悪くないとは、さすがに言わないが。





