62.レンブラント侯爵家に連なる者
扉をくぐって現れたのは、レイとマーティンだった。
子どもとはいえ、レイは今身柄を拘束されているはずなので、騎士団の人間が彼女を連れてくるのは想定していた。だがそれがマーティンだとは思わなかった。
何故近衛の彼が、と思って彼の顔を見つめていると、マーティンもこちらを見た。
彼はいつもの仏頂面から、さらに無愛想に口を真一文字に結んで、その後腰を90度に折った。
「此度は大変申し訳ございませんでした」
「え」
思わず目を瞬いてしまう。
レイが謝罪をするならば分かるが、付き添いのはずのーーしかも普段だったら私の足を踏んだくらいではたいして謝らないだろうマーティンが頭を下げるというのは、どういう事情だろう。
「マーティ? 何で君が」
「レンブラント侯爵家に連なる者の不始末、平にお詫び申し上げます」
レンブラント侯爵家に連なる者?
言われて、彼の前で縮こまっているレイと、マーティンを見比べる。
瞳の色はマーティンのほうがやや暗いが、黒い髪に銀色の瞳というカラーリングは、確かに似ている、ような。
「レイは、自分の叔父です」
「ん?」
「叔父です」
再度答えられたが、右耳から入った言葉が脳を通過することなくそのまま左耳から出て行った。
ぽかんとしている私とリリアに向けて、マーティンが繰り返す。
「叔父、です。祖父の落し胤なんです、レイは。現侯爵である自分の父の、歳の離れた弟にあたります」
しばらく理解が追いつかなかったが、3度目の説明でようやく咀嚼できた。
なるほど。タラちゃんとカツオ、承◯郎と仗◯の関係性か。
血族第一主義の貴族である。なかなか男児に恵まれなかったり、長男の身体が弱かったりすると跡継ぎが必要な人間は頑張らざるを得なくなる。
その結果、年の離れた兄弟がいるというのもよく聞く話だし……そればかりが理由というわけでもないのだろうが、愛人や妾、ご落胤の話などは枚挙にいとまが無い。
現に西の国のリチャードだってヨウだって愛人の子だ。
この世界で認知という言葉を使うのが正しいかは知らないが、そのあたりも様々らしい。
マーティンの祖父も例に漏れず頑張ってしまった結果なのか、それとも単にハッスルしてしまった結果かは分からないが、レイが生まれた。
年齢こそまだ幼いが、レイはマーティンの父の弟妹にあたる。そこは理解した。
だが、問題はもう一つあった。
もう一つの問題について、問いただす。
「えーと。妹? だよね? つまり、君の叔母?」
「弟です。叔父です。彼の本名は、グレイ・レンブラント」
「???????」
レイを見る。
私と目が合ったレイはびくりと怯えたように身体を震わせて、マーティンの後ろに隠れてしまった。
先日相当脅かしたので当然だろう。
腰まで届くかという長さの艶やかな黒髪に、白いフリルとリボンがついたミントグリーンのワンピース。
ロングヘアーにスカートである。どこからどう見ても、女の子だ。
「祖父は少々、素行に問題があり……男だと、侯爵位の継承権を持つことになりますので……市井で安全に生きるにあたって、女だと偽って暮らしていました」
それらしい理由を並べられても、まったくもってしっくりこなかった。
男だと言われてから再度レイを上から下まで眺めるが、やはり納得できそうにない。
自分で言うのもなんだが、私が他人様の性別を疑うことになるとは思わなかった。
「あの……レイ、男だよ?」
レイは躊躇いなくスカートをまくり上げた。
リリアがきゃっと両手で目を覆うが……指がばっちり広がっていて、全部見えている。ここでそんなお約束をやってどうする。
見せられた下着の形状は確かに男性物だ。
いや、見せるな。
マーティンがさっと屈んでレイのスカートを直してやる。
そして立ち上がると彼女……いや、彼なのか?……の後ろに立ち、促すように背中にそっと手を添えた。





