61.「……え? 私?」「他にいます?」
「で、事件のときあの子、エリ様に言ってたじゃないですか。エリ様とずっと一緒にいたかった、みたいな」
「うん? あー、言ってた、かな?」
リリアの言葉に、先日の事件のときのことを思い出そうとする。
だが血液が足りずに頭がまともに回っていなかったのか、レイが何を言ったのか、私が何を言ったのか……そのあたり、正直はっきりと覚えていない。
レイが謝っていたらしいことは、覚えているのだが。
リリアがじっと私のことを見つめながら、続ける。
「大きくなったらエリ様と結婚するって言ってたんですよね?」
「それは、……言われたけど」
「エリ様にめちゃくちゃ懐いてるんですよね?」
「まぁ、それは、うん」
リリアの言いたいことがわからないままに、とりあえず頷く。
リリアは一呼吸置くと、神妙な顔をして言った。
「つまり、この世界でいうあの子……魔女グレイシアを捨てた男っていうのは」
「…………」
リリアがじっと私を見つめている。
しばらくその琥珀色の瞳を見つめ返したところで、彼女が何を言わんとしているのかを悟った。
「……え? 私?」
「他にいます?」
リリアの目がじとりと三白眼になった。
やれやれ、とんだ濡れ衣だ。
確かにレイには懐かれているし、最後に会った記憶の中の彼女も「騎士様と結婚する」とか言ってた気はするが。
そこでふと、魔女の気配を最初に感じた時のことを思い出した。
あの時は絡んできた酔っ払いのチンピラたちのせいで取り逃がしたが……あれがもし、酔っ払いではなかったとしたら?
魔女の魅了に当てられて、操られていたから、どこかぼーっとしたような、酔っ払いのような挙動になっていたとしたら?
あの男たちは言っていた。
「騎士様だ」「金髪の騎士様だ」と。
身なりがあまりよくないチンピラじみた見た目だったので、ふざけて「様」をつけているだけだと思ったが……もし、「騎士様を探して」と、そのまま言われたことを繰り返していたからだとしたら?
それはつまり――魔女に操られて、金髪の騎士を探していた、ということに、ならないだろうか。
……いやいや、まさか。まさか、な。
金髪の騎士など掃いて捨てるほどいる。私と決まったわけではない。
「エリ様」
「……何」
「やっちゃいましたね」
「やってない」
「いやこれはやってますよ」
「濡れ衣だ」
私のせいだと決めつけてかかるリリアにため息をつく。
お前は私を善人にしたいのか悪人にしたいのか、どっちなんだ。
「そもそも捨ててない、ずっと変わらず可愛がってるよ」
「最後に会ったのは?」
「……一年くらい前」
「小さい子にしたら一年なんて永遠みたいなものですよ」
「だけど、それこそあの年頃の子の好きな人なんてすぐに」
変わるじゃないか、と反論しようとしたところで、ノックの音がサロンに響いた。





