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モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
第2部 第6章 魔女編

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54.エリ様の恋人(予定)です(リリア視点)

 ヨウの情報をもとに、魔女とエリ様が去っていったという住宅街の方角に向けて、男爵家の馬車から拝借した馬に乗って走ります。


 もちろんわたしは一人では乗れないので、ロベルト殿下の後ろで鞍にしがみついています。まったくもって気遣いゼロなので何度も舌を噛むかと思いました。

 ですが……ヨウの話を聞いた後では、悠長にしていられないのは確かです。


 魔女に対抗できるのは、聖女。

 それはわたしも考えていたことでした。


 魔女というのは教会に与していない聖女である、というのがわたしの仮説です。

 聖女には魅了は効きません。フグが自分の毒で死なないのと同じです。わたしなら……聖女なら、魔女の力を無効化できるかもしれないのです。


 ロイラバ2に出てくる幻惑の魔女グレイシアは、幻覚を見せたり、モブを操ったり、攻略対象を唆したりします。

 それはつまり……魅了の上位互換なのでは、というのがわたしの見解でした。


 この街に現れている魔女もそうです。出会った人がみんなが口を揃えて「絶世の美女だった」と言うのはつまり……その人にとっての「絶世の美女」の姿に見せているからです。

 そういう形に、認識を捻じ曲げているのです。


 そして魔女が使っている上位互換の魔法が「認識を捻じ曲げるもの」だとするなら、魔女に出会った一部の人が、口をつぐむ理由にも納得ができます。

 聖女の魅了は、心を決めた相手がいる人には効果がありません。

 でももし……その心に決めた相手の姿に見えるように、認識を捻じ曲げられるとしたら?


 それはもう魅了というより、認識阻害といった方が近いのかもしれません。

 たとえば自分の思い人の姿に見えていたとしたら、証言を求められても滅多なことは言えないでしょう。

 仮に本人でないと分かっていたとしても、です。


「隊長!!」


 ロベルト殿下の声がしました。

 馬が急ブレーキを掛けます。馬が止まり切らないうちに、ロベルト殿下が馬の背から飛び降りました。

 わたしも馬が止まってから、えっちらおっちら馬を降ります。


 ロベルト殿下の肩の向こう、道の奥。

 騎士団の制服姿のエリ様が、ふらふらと歩いていくところでした。

 エリ様の背で隠れて見えないけれど……その奥に、魔女がいるのでしょうか?


 ロベルト殿下がエリ様に駆け寄り、その肩を掴みました。


「隊長、どこへ」

「離せ」


 ロベルト殿下の手を、エリ様が振り払います。

 こちらを振り向いたエリ様の瞳は、今まで見たことがないくらいに、冷え冷えと冷え切っていました。


 思わず足が止まります。声が出せなくなります。

 エリ様に塩対応されたことは数えきれないくらいにありますけど……その比ではありませんでした。


 まるで、路傍の石でも見るような。いえ、顔の周りを飛ぶ蝿でも見るような。

 敵意というのも烏滸がましいくらい……取るに足らないけれど邪魔だなぁ、というものを見る目です。

 そのまま無感情に、わたしたちのことを叩き潰しそうな、そんな目です。


 怖い。

 わたしは初めて……エリ様のことを、心の底から怖いと思いました。


「リリア嬢」


 ロベルト殿下がエリ様から視線をそらさずに、わたしを呼びました。


 彼の横顔に目を向けます。

 その目には焦りの色がありました。冷や汗が顎を伝っています。


 力量差のわからない私ですら威圧されるくらいです。エリ様の強さをよく知っているはずのロベルト殿下なら……もっと怖いと感じたはずです。

 それでも、彼は一歩も後退りしませんでした。歯を食いしばってただ真っ直ぐに……エリ様を見つめていました。


「俺が何とかして隙を作る。だから、その隙を見て」


 その言葉に、わたしは唇をぎゅっと引き結びます。

 そしてぺちぺちと、自分の頬を叩きました。


 そうです。わたしが怖がってどうするんでしょう。

 わたしは主人公です。聖女どころか大聖女です。

 そして何より……エリ様の恋人(予定)です!


 今は! まだ! 友達! ですけど!

 今は!! 今はね!!


 ここでエリ様のことを止められなくて、何が主人公でしょう。何が大聖女でしょう。

 何が友達でしょう。


 こういうときに「ほら、怖くない」と言ってエリ様に手を差し伸べるのが主人公らしいムーヴのはず。

 ロベルト殿下の目を見て、頷きます。


主人公ヒロインぢから、見せてやりましょう!」

「ひろ……?」


 ロベルト殿下は一瞬よく分かっていなさそうな顔をしましたが、わたしに頷き返しました。


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― 新着の感想 ―
[一言] リリアちゃん!やはりつよいこですね!好きだァ!!!
[良い点] 更新感謝です! 毎日更新でないときも、もしかして?!と思って日に何度も携帯を見てしまいますw いつもわっくわくで楽しませていただいてます!!
[一言] やっぱりリリアは可愛いだけじゃなくてカッコいいです!
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