53.私の知るエリ様は(リリア視点)
「シリアスでしんどい」という理由で突発毎日更新が始まっております。
昨日も更新しておりますので、まだの方は1話前からどうぞ。
引き続きリリア視点です。
ヨウはフィッシャー先生の指示で……ロベルト殿下の手前若干ぼかしていましたが、エリ様からだいたいの事情を聞いているわたしには筒抜けです……エリ様の護衛に当たろうとしたようです。
自分が怪我をしたことで、エリ様が魔女により一層興味を持つのではないかと危惧したから、ということでした。
ふ、ふ――――――ん????
それはあれですか? エリ様は昔先生のことが好きだったから、先生がやられたと知ったら、怒って魔女に挑みに行くんじゃないかってことですか??
それとも、自分がエリ様と仲良く手合わせしたりしてるから、そんな自分がやられたら「先生を倒すなんておもしれー女」って魔女に興味を持っちゃうんじゃないかってことですか??
ふ――――――ん????
どっちも嫌なんですけど????
ヨウがエリ様の後をつけていたところ、運悪く魔女に行き合ったそうです。
魔女に会った男は皆使い物にならなくなる、とか聞きましたけど。エリ様もどこかぼんやりした様子で、魔女についていこうとしたそうです。
それを止めようとしたところ……ボコボコに伸されてしまったとのことでした。
その怪我、魔女じゃなくてエリ様にやられたんですね。
ドMになったと聞いていましたが、エリ様にボコボコにしてもらえたにも関わらず、ヨウはまったく嬉しそうではありませんでした。
「あれはいつものエリザベスではありまセン。意識があるのかないのか……阿片窟にいる人間の目と似ていマス」
阿片って、あれですよね。非合法な危険薬物的なやつですよね。
ぼーっとしていることはあれど、そんな不健康そうな目をしたエリ様というのは、あまり想像できませんでした。
「普段のエリザベスになら、踏まれても蹴られてもいいのデスが」
「踏……?」
よく見ればヨウの背中には靴跡が残っていました。
ガチで踏まれたっぽいです。
「死ぬかと思いまシタ」
「お前、隊長に殺されたがっていたくせに」
「ンー?」
ロベルト殿下の言葉に、ヨウが一瞬目を見開きました。
でもそれはほんとうに一瞬のことで……すぐに彼は、ふっと小さくため息をつきます。
「そうデスね。あのまま戦っていたら、きっと殺してもらえまシタ。でも……今のエリザベスに殺されても、面白くありまセン」
ヨウが芝居がかった様子で肩を竦めて、首を横に振ります。
それはやっぱり、エリ様が異常な状態であることを示していました。
だってエリ様は……いくら嫌いでも、ヨウを殺したりしない人だから。
そんなことをするくらいなら、爆発が起きた廃屋に置いて逃げたはずです。
エリ様に言ったら「私を勝手に善人にするな」って言われそうですけど……私の知るエリ様は、人の心はないし、性格も悪いけど……でも決して、極悪人というわけではないのです。
「エリザベス、プライドが高いデス。誰かに助けを求めるとか、嫌がりそうでショウ?」
ヨウがクツクツと喉の奥で笑います。
細められたその奥の瞳は、相変わらず暗く澱んでいて……エリ様のいわく「他人を騙すことをなんとも思っていない目」でしたけど……
それでも、あの廃屋で対峙したヨウよりも、意志のこもった目をしているように、見えました。
「勝手に生きろと言われまシタから。エリザベスが嫌がりそうなことをして、ニヤニヤ眺めて生きていくことにしまシタ」
「お前……」
「それでも、ワタシでは勝てまセンから」
ヨウがふざけた言葉とは裏腹に、真っ直ぐロベルト殿下を、そしてわたしを見つめます。
「このまま魔女に連れて行かれたら……二度と戻って来ないかも。そうでなくても……ワタシ以外にも誰か、傷つけてしまうかも」
ヨウの言葉に、ロベルト殿下が息を呑みます。
そしてこれでロベルト殿下も分かったのでしょう。
口ではいろいろ言っていますけど……ヨウもエリ様を、助けようとしているのだと。
「第一師団で聞きまシタ。聖女なら、魔女の力に対抗できる可能性がある、と」
視線を受けて、わたしは小さく頷きます。
聖女の魅了については、一般的には知られていませんが、資料を探れば乙女ゲームの知識がなくても、十分想像が出来る範囲のものです。
この国の研究者や、教会の偉い人なんかは、ある程度理解していても不思議ではありません。
その偉い人たちの推測と、わたしの推測が重なっている。つまりきっと――この推測は、正しい。
「デスから、お願いしマス」
ヨウがずるずると壁を伝って、地べたに倒れ込みます。
土下座なのか、単に体力の限界なのか分かりませんが……聖女の祈りをかけようと近づいたわたしに、彼は譫言のように、こう呟きました。
「あいつを、止めてくれ」





