52.中堅男性声優声(リリア視点)
シリアスな感じが続いており週3更新だと岡崎が耐えきれないのと、ちょっとだけストックが出来たので今週は突発毎日更新でいくことにしました!(今決めました)
というわけで火曜日ですが更新します。
リリア視点です。
「リリア嬢!」
教会を出て、男爵家の馬車に乗り込む直前のことです。
聞き覚えのある若手男性声優っぽい声に振り向けば、ロベルト殿下がこちらに駆けてくるところでした。
一歩が大きいロベルト殿下は、あっという間にわたしの目の前までやってきます。
ゲームの公式プロフィールよりがっちりしているせいでしょうか、身長まで一層大きく見えます。見上げていると首が痛くなりそうです。
ロベルト殿下と向き合うと、普段いかにエリ様がわたしに気を遣って目線を合わせてくれているのかがよく分かります。
さすがエリ様。しゅき。
「隊長を見かけなかったか?」
「え?」
ロベルト殿下に問いかけられて、ぱちぱちと目を瞬きます。
ロベルト殿下の呼ぶ「隊長」はエリ様のことです。何番隊のかはわかりませんけども。
今日はエリ様とは会っていないので、首を横に振ります。
「い、いえ、わたしも今、教会のお勤めが終わったところで」
「……そうか」
ロベルト殿下が、わずかに目を伏せました。
そうして影のある表情をしていると、ゲームのロベルト殿下と瓜二つです。
ロベルト殿下が顔を上げ、真面目な顔で頷きました。
「協力感謝する。それでは」
「あ、あの!」
咄嗟に踵を返そうとしたロベルト殿下を呼び止めます。
というかこの流れで呼び止めないのは無理だと思います。何かあったのかと聞いて欲しくてやっているとしか思えません。
わたしは天邪鬼のエリ様と違って空気が読めるので、流れに乗って質問します。
「エリ様に、何かあったんですか!?」
「……それが、今日隊長は夜警の当番だったんだが……約束の時間になっても姿が見えず」
ロベルト殿下が困ったように視線を彷徨わせます。
身体中から、「不安」というのが滲み出ていました。
確かに、筋トレ大好きエリ様が訓練場や騎士団の予定をすっぽかすなんて、あまり考えにくいです。
よっぽどのことがあったのかと不安になる気持ちは、わかります。
「心配になって隊長の家まで迎えに行ったところ、隊長はもうすでに家を出て詰所に向かったと」
「え……」
それはつまり、エリ様は予定通り家を出たのに、まだ騎士団の集合場所に来ていないということで。
つまり、つまり……
「それって……エリ様、行方不明ってことですか!?」
「いや、まだそうと決まったわけではないが」
詰め寄る私をどうどうと手で制していたロベルト殿下が突然、素早く後ろを振り向きます。
そしてわたしを庇うように立ち、腰の剣を振り抜きました。
わたしは何が起きているのか分からず、ロベルト殿下の背中を眺めることしかできません。
「見つけタ、聖女!」
誰かが暗闇から姿を表しました。
その中堅男性声優声に聞き覚えがあります。わたしたちの目の前に現れたのは……ヨウでした。
聖女、ということは、わたしに、何か?
一瞬身構えましたが、ヨウの姿をよくよく見るうちに、どうやら違いそうだぞと気付きます。
何といいましょうか、ヨウはかなり……ボロボロでした。
乙女ゲームっぽく口の端が切れて血が出ていますが、顔には殴られたような痣があって乙女ゲームっぽくありません。
右腕をだらんと下げて、左腕でそれを庇うようにしています。壁に寄りかかって、何とか立っているように見えました。
服も破れたり、汚れたりしています。たとえば壁とか地面を転がったり、のたうち回ったりしたような仕上がりでした。
そして彼は……やけに、切羽詰まった顔をしていました。
ロベルト殿下もその風貌を不思議に思ったのでしょうか。対峙したままではありますが、構えていた剣を一度下ろしました。
「何の用だ、ヨウ・ウォンレイ」
ロベルト殿下が低い声で問いかけます。
さすがに空気が読めるので、「駄洒落ですか?」とは聞きませんでした。
「お願いデス」
ヨウが口を開きます。
表情によく合った、切羽詰まった声でした。
「エリザベスを、止めてくだサイ」





