51.絶世の美女
皆さまあけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!
更新話が何だかシリアスなので、活動報告に明るい感じの小話もUPしています。
マーティン視点の小話となっておりますので、よろしければそちらもご覧ください。
「あれは……魔女だ」
先生が、声を低く落として答える。
その言葉に、首を捻る。
魔女らしき足音の主とは私も学園でニアミスしたが……さほど強そうな気配には感じられなかった。
得体の知れなさはあったものの、それよりも先生の敵意に気を取られたくらいだ。
少なくとも、この乙女ゲームの作中最強が「勝てない」と評する相手としては、違和感がある。
「ま、魔女、会ったんですか!?」
リリアが一歩踏み出して、先生に問いかける。
「ど、どんなでした!? 何系!?」
系って何だよ。
先生も何を聞かれているのか分からないらしく、怪訝そうにリリアの顔を眺めている。
リリアはそれを気にも留めず、さらにベッドに詰め寄った。
「美人でした!? セクシーでした!? キュートでした!?」
「ちょっと、リリア」
「だ、だって、セクシー系のお姉さんだったら、エリ様がめろめろになっちゃうかもしれないじゃないですかぁ!」
「なりません」
どういう方向性の心配しているのだろう。
もう少し街の平和の心配をしてもらいたいところだ。
まぁ、魔女はロイラバ2のラスボス的な存在とは言え、所詮は乙女ゲームの敵キャラだ。
どのルートでも、主人公と攻略対象の愛の力的なパワーによって打ち倒されることは確定している。
筋書きを知っているリリアからしてみれば危機感が薄くてもやむを得ないのかもしれない。
とはいえ、魔女については私も興味がある。
ロイラバ2に登場する幻惑の魔女、グレイシア。今街に現れている魔女が、それと同一人物なのか、違うのか。これは大いに気になる点だった。
そして会った人間が皆口を揃えて「絶世の美女だった」と言って憚らない魔女が、どんな見た目をしているのか。
それにもやはり、興味がある。
事細かに記憶しているか、そうでないかは差があるようだが……人間の好みは人それぞれだろうに、魔女に出会った男は老いも若きも同様にそう証言するらしい。
リリアと恋愛をするはずの攻略対象である先生が、その絶世の美女をどう表現するのか。
一応リリアを嗜めつつも、その回答には興味があった。
何か魔女の正体に繋がる情報があるかもしれない、という興味が半分と……残りは面白半分である。
先生を見ると、何故か目が合った。そしてさっと視線を逸らされる。
彼はしばらく口籠った後で、やがて言いにくそうに答えた。
「まぁ、いい女だとは思うよ」
◇ ◇ ◇
夜警のバイトのため、公爵家の門を出て街の詰所を目指す。
しばらく歩いていると、疑念が確信に変わった。
少し前より格段に上手くなっていたが……覚えた気配は見つけやすい。さすがにこの距離感で尾行するのに完全に気配を消すのは無理だろう。
やれやれ、お目付役の先生が療養に入った途端に、早速第一師団を抜け出してストーカー業に勤しみ出したのか。油断も隙もない。
狭い路地で立ち止まって、ドMストーカー予備軍の某第六王子に呼びかけた。
「おい、ヨウ。私に付きまとうなと……」
ふと、振り向いた視界の隅に、ヨウではない人影を捉えた。
咄嗟に剣の柄に手をかけ、そちらに向き直る。
路地の向こう、一人の女性が佇んでいた。
黒く長い髪、グラマラスな深紅のドレス。そして……闇夜にぼんやりと光る、銀色の瞳。
その特徴は、私の知る幻惑の魔女「グレイシア」と合致していたが、それと同時にどこか、妙な既視感を覚える。
あれ。誰かに、似ている……ような。
カツン。
女性が一歩、踏み出した。その靴音は、女性であることを、ヒールであることを差し引いても……軽い。
そうだ。学園でも、そう感じた。
それは、まるで……
「騎士様、見ぃつけた」
瞬間、視界がぐるりと反転する。
頭の中が、その女性の微笑で埋め尽くされる。他のことを考える余裕が奪われる。
なるほど、これは確かに、絶世の美女だ。
頭の中が撹拌される。
目の前がブラックアウトする。立っていられない。
ああ、なんて――
。 う ろ だ ん な 人 美





