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モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
第2部 第6章 魔女編

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49.それ、自己紹介?

「別に心配する必要、ないと思うけど」


 考えていたことをそのまま口に出せば、リリアが私を見た。

 そしてぱちぱちと瞬きをしたかと思うと、私の腕に勢いよくしがみついてきた。


「ヤキモチですか!?」

「違う」

「ジェラシーですか!?」

「違います」


 思わずため息をついてしまう。

 成長したとか思った私が馬鹿だった。もしかして一生こんな感じなのだろうか、この肉食聖女。


「中身はさておき、ヨウも顔はいいんだし、この世界はイケメンにはやさしいし。寄り添ってくれる女の子の一人や二人、生きていればこれからいくらだって捕まえられるだろ。だから心配ないよ」


 ヨウは主人公と同じ年だ。18かそこらで五体満足、健康体。

 やさしい世界のおかげで、処刑されたりすることもなく、悠々自適な捕虜生活。おまけにお綺麗な顔までついている。


 乙女ゲームのヨウと比べれば恵まれた状況ではないだろうが……母親が死んでいたことを知ってなお生きているし、東の国とは決別している。国に見捨てられた形ではあるが。

 「主人公と恋に落ちた」の部分がすっぽり抜け落ちていることを差し引けば、置かれている環境自体は大差ない。


 違う未来が、なんて言い方をしたら、まるでもう取り返しがつかないことのようだが……実際は違う。人生まだまだこれからだ。

 憎まれっ子世に憚るというし、五十、六十、喜んで、である。

 これから先の未来の方が長いというのに、何を悲観しているのだろう。

 

「エリ様、ほんと適当で無責任ですよね……」

「選んだのは私じゃないからね。私に責任がないのは当たり前だろ」


 リリアの冷ややかな視線を苦笑して躱す。

 たしかに世界機構とやらのせいで復讐に取りつかれて、もともとのヨウとは違う歪んだキャラクターになってしまったのは、彼だけのせいではないのだろう。


 だが私は知っている。

 この世界の強制力とやらが……決して万能ではないことを。

 ただのモブ同然の人間一人の力で、変えられる程度のものだということを。


 だからこそ、言える。

 彼だけのせいではないが……世界機構のせいだけでもないのだ。


 彼が言い寄った相手が主人公ではなく私だったから、彼を真実の愛とやらに導けずにヨウが歪んでしまった、という見方もできるだろうが……それで言うなら、そもそも聖女ではなく私に求婚したという選択からしてゲームとは違う。

 縋る相手を選択したのは――彼自身だ。


 やるか、やらないか。決めるのは自分自身だ。筋トレと同じで、決められるのは自分だけだ。

 転入してきたあの時からきっとヨウは決めていたのだ。

 任務ではなく、復讐を優先することを。


 そのために、聖女ではなく彼の作戦を結果的に邪魔してしまったらしい私をターゲットに定めたのだ。

 それが彼の選択である以上、私には縋り付く彼に手を貸してやる義理はない。

 恨まれるのは構わないが……私に何かを期待するのはお門違いだ。

 そしてあの時、引き金を引かないという選択をしたのも、彼自身である。


 報いは彼が受けるべきだし、今後どうするかも彼自身が選ぶことだろう。

 そしてそれが気の毒なことかどうかも――私たちが決めることではない。


 馬車が止まった。

 御者がドアを開けたので、先に馬車を降りてリリアに手を貸してやる。


「銃口向けられた相手に同情するほど、やさしくないだけさ」

「エリ様ってどうしてそう、変な人を惹きつけちゃうんでしょうねぇ」

「それ、自己紹介?」


 にやりと笑って問いかけると、リリアが私の肩をぽかぽかと殴った。

 痛くも痒くもない。


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― 新着の感想 ―
[一言] エリザベスはやっぱり、こうなんかかっこいいですねぇ……。 そんなエリザベスはとっても素敵だと思います!
[良い点] 更新感謝
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