48.永久就職
「悪役ナイズされた挙句エリ様にも相手にされなかったせいで、本当は主人公と一緒に向き合うはずだったお母さんの死に一人きりで向き合うことになって……なんていうか、歪んじゃったのかな、とか」
「それとドMのストーカーになるのは話が別だろ」
「その件についてはちょっとよく分かんないですけど。エリ様何かしたんじゃないですかぁ?」
どんな濡れ衣の着せ方だ。
何をどうしたら自分を恨んでいる人間をドMのストーカーに出来るというのか、こちらが聞きたいくらいである。
教えてもらえたらタイムマシンに乗って過去に戻り、二度とその行為をしないように気をつけて過ごすだろう。
「そう思うと、ちょっと気の毒かも、とか思っちゃったりも、するんですよねぇ」
リリアが窓の外に視線を投げる。釣られて私も窓の外に目を向けた。
ちらほらと灯る街灯の他は、何も見えない。
「ヨウもヨウで、苦しんでたのかな、とか。寄り添ったり、支えたり。……大丈夫だよって言ってくれる人がいたら、違う未来があったのかな、とか」
そう呟くリリアの横顔が、妙に大人びて見えた。
彼女も私と同様に自分のことで手一杯なのだと思っていたが……どうやらそうでもないようだ。
強くなったのは聖女としての力だけではない。
大聖女の力を手に入れ、聖女として頼られるうちに、リリア自身も成長しているのだろう。
思えばリリアは学園卒業後も、聖女として教会に永久就職することが決定している。
手に職をつけているのだ。主人公だけあって、私などよりよほど安定した未来が約束されている。
また何となく、置いて行かれたような心地がした。
身の振り方をきちんと考えていないのは自分だけなのではないかという気がしてくる。
それでも内心「まぁでも主人公に選ばれたんだし何とでもなるだろう」と思っているのでたいして焦りがないのが殊更まずいような気がしてくる。
ヨウに就職先を斡旋している場合ではなかったかもしれない。
顎をしゃくって、リリアに話を振る。
「助けてあげたらどう? 聖女様」
「こういうときだけ聖女扱いする……」
「誰かを救うのは悪役じゃなくて、主人公の仕事だろう」
「こういうときだけ主人公扱いする……」
リリアが「普段はわたしのことホ〇ミスライムくらいにしか思ってないくせに」とため息と共にこぼした。
時折珍獣のような振る舞いをすることはあれど生物学上は人間だ。さすがに友達をモンスター扱いはしない。
白魔導士くらいには思っている。
「助けられるならもうやってますぅ」
「ずいぶんヨウに肩入れするんだな」
聖女らしい、主人公らしい台詞を口にしたリリアを、わざと揶揄うように言う。
そういえば、ヨウも推しだとか言っていたか。
なるほど、それならば可哀想だなんだと肩入れするのも納得である。
ついでにリリアとヨウでくっついてくれたら、二人まとめて片付くのだが……いや、友達としては、ストーカーはともかくドMは矯正されてから検討することを強く推奨するが。
矯正が順調かは分からないが、第一師団での様子を見るに、ヨウもそれなりにうまくやっているようだ。心配の必要はないだろう。
何なら私の将来の方が不安なくらいだ。





