46.重い過去のバラエティの限界
ヨウにも攻略対象にはつきものの重い過去やシリアスな設定が盛り込まれている。
スパイであるヨウは、任務の一環として主人公に近づくが、いつしか本当に主人公に心惹かれていく。
自分と母、そして国のための任務と愛を天秤にかけて苦悩するのだ。
だがそこは乙女ゲーム。ここで恋愛に舞い上がって容易に母親と国を捨ててしまうような頭がお花畑の男では、魅力が半減してしまう。
そこにはきちんとプレイヤーが納得できるような「理由」が用意されている。
ヨウのルートに入ると明らかになることだが、後宮にいることになっているヨウの母親は――ヨウがこのディアグランツ王国に遣わされる頃に、すでに病気が悪化して命を落としていたのだ。
ヨウは初めはそうとは知らず任務を続けていたが、ある時東の国の兵士たちが話しているのを聞いてしまい、事実を知る。
「もう死んだ母親のために、可哀そうなやつだ」とか、そんな話をしているところに通りかかってしまうのだ。
ショックを受けるヨウを、お約束的に主人公が献身的に支える。突き放されてもそれはもう涙ぐましいまでに一途にヨウに寄り添う。
そこでヨウは主人公にすべてを打ち明けて、東の国とは完全に決別する覚悟を決めるのだ。
最後は主人公の愛のパワー的な力の助けを借りて東の国から入り込んでいた兵士たちを一網打尽にし、結果としてそれが戦争を止めることとなり、ヨウはその功績からスパイの件は不問となり無罪放免、一件落着となる。
攻略対象、家庭環境に問題があるキャラクターが多すぎないだろうか。
貴族という身分制度はそれは問題が起きやすいものではあるだろうが……それにしたって、安易に多用しすぎだろう。
逆説、このあたりが十何年しか生きていない若者に背負わせられる重い過去のバラエティの限界ということだろうか。
「そもそもわたしの誘拐だって、わざとエリ様をおびき出そうとしたりとか、あんまり合理的じゃないっていうか……聖女を手に入れるよりも、エリ様に『ざまぁ』してやろうみたいな、そっちに重きを置いてる感じがしたというか」
昨年の聖女誘拐事件について思い出す。
ヨウが聖女誘拐を実行せざるを得なくなったのは、我が国の反撃――今でも表向きにはそんな事実は「なかった」ことになっているが――により他の拠点が潰されたりして、これ以上待ってもジリ貧になることを予測したからだろうと思っていたが……それだけではなかったのかもしれない。
もちろん聖女が手に入ればそれに越したことはないだろうが、もとより成功しなくてもいいと思っていた可能性が出てきた。
思えばあの廃屋で私を待ち伏せして、殺したとして――その後彼はいったい、どうするつもりだったのか。
考えれば考えるほど、それが分からない。
いくら聖女を人質にしていても、敵国のど真ん中だ。
ただでさえ人手や武器が予定よりも不足している状態で果たして乗り切れるのか。それはかなり、分の悪い賭けになるのではないか。
もし聖女を連れて東の国に戻ることを念頭に置いていたなら、もっと国境付近か、港か、とにかくアクセスのよい場所を決戦の場所として選ぶべきだろう。
自分の計画を邪魔した私に一矢報いることが出来れば、その後は捕まってもいいとか――最悪は相打ちでもいいと思っていたのかもしれない。
思われる方はたまったものではないが。
相打ち覚悟とは、もはや特攻である。
自国に母親を残している人間が、理由なく自暴自棄と言ってもいい行動に出るとは思えない。
自暴自棄になる理由、やぶれかぶれになる理由。
それが「母親の死」を知ってしまったことだとすれば、彼の行動にも説明がつく。





