40.先生みたいに、ですか?
モブどれ2巻直前ということで、表紙の画像等を活動報告にUPしました。
表紙最高なので、まだご覧になっていない方はぜひご覧ください。
ゲームの記憶に思いを馳せていると、先生がこちらをじとりと睨みながら、また呆れたような声を出す。
「まさか、預けてそれっきりのつもりじゃないでしょーね」
なるほど。自分で預けたのだから、進捗状況くらい確認しに来いということか。
それならば好都合だ。
ヨウにはさほど興味はないが……いやドMではなくなってほしいと思っているが……第一師団の人間には興味がある。
先生とも再戦してみたいと思っていたし、詰所で声を掛ければ他の騎士とも手合わせできるかもしれない。いいチャンスだ。
「たまに様子を見に行きます」
「そうしなさい」
私が頷くと、先生も満足そうに頷いた。
そして私の肩をぽんと叩く。
「それじゃ、今日はもう帰んなさい。おれから第四に話を通しとくから」
「ご心配なく。私を襲える暴漢は羆くらいだそうなので」
「おかしいなぁ。羆と引き分けた噂、聞いた気がするんだけど」
「では白熊でしょうかね」
言ってから思ったが、この世界に白熊、いるのだろうか。
南極とか北極があるかすら知らないが……まぁ通じなくとも適当に「ほんやくこんにゃ◯」されて伝わるだろう。
「そういう問題じゃないの。女の子がフラフラしていい時間帯じゃないでしょ」
ため息をつかれるが、そちらも白熊と同じくらいに現実味のない心配事だ。
騎士団の制服を着た男に襲い掛かる人間がいたとしたら、その場合無差別で襲うつもりだと思うので、そのリスクを取るなら人類全員のべつまくなしに夜出歩いてはいけないことになってしまう。
私が返事をしないことに焦れたのか、先生がさらに言葉を重ねる。
「世の中にはいろんな奴がいるのよ。みんながみんな、羆みたいに分かりやすく力で戦わせてくれるわけじゃない。たとえば薬で眠らせたり、人質取ったり。エリザベスちゃんがどれだけ強くったって、絶対なんてないんだから」
「ご注進痛み入ります」
「痛み入ったなら早く帰んな」
「私を襲ってもメリットがないでしょう。毛皮が売れるわけでなし」
「世の中にはね、いろんな趣味の奴がいるのよ」
言い聞かせるように告げられた言葉が妙に重々しく実感を伴っているように感じられ……ふと、目の前の人間の性的趣向を思い出した。
「先生みたいに、ですか?」
「ごほっ!」
先生が吹き出した。
図星をついてしまったらしい。
ヨウを預けたはいいものの……どうしよう。
ドMが治ればいいが、それが治らなかった挙句にロリコンになってしまったら、いよいよ始末に負えないぞ。
先生がげほごほ咳き込みながら、息も絶え絶えといった様子で返事をする。
「そ、れは、今は関係ないでしょ」
否定しなかった。
私は悟る。これ以上踏み込まない方がいい。
他人様の性癖など深淵と同じで覗き込まない方がいいに決まっている。
思春期にまともでない大人と接するのは私の情操教育に悪影響だ。
「ほれ、行った行った」
「……分かりました」
結局、私は渋々とではあるが帰宅することにした。
第四師団の皆には悪いが、ここで押し問答をするよりも精神の安寧を優先したのだ。
ヨウのことを引き取ってもらえたのだから、今日のところは先生の顔を立てた方がいいのも確かだ。
今度埋め合わせをすると伝えてもらうよう頼んで、私は帰路に着いた。
ヨウの気配がついてこないことに、安堵しながら。





