表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
第2部 第6章 魔女編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

414/598

37.騎士団随一のホワイト師団

「先生」

「……エリザベスちゃんさぁ」


 一見すると誰もいないように静まり返った通りで目当ての気配を見つけて、声をかける。

 街灯の陰から、するりと抜け出すように人影が現れた。


 人影――フィッシャー先生が頭をがしがしと搔きながら、気だるそうにため息をつく。


「何をどうやっておれの気配見つけたわけ? これでも隠密行動してるつもりなんだけど」

「一度覚えた気配は探しやすくなりますから」

「自信無くすなぁ」


 彼は芝居がかった仕草でがっくりと肩を落とす。

 あまりにわざとらしいので、ただポーズとしてやっているだけでさほど気落ちしているわけでもないのだろう。


「見回りですか?」

「そうそう。お前みたいな悪い子を注意するための、ね」


 こちらに向き直って、腰に手を当てて私を睨む。

 いかにも先生らしい口調に、お説教の気配を察して思わず口を噤んだ。


「ダメでしょ、子どもがこんな遅くまで出歩いてちゃ」

「警邏のバイトですよ」

「第四師団、どんだけ人手不足なのよ。昼間ならともかく、夜警にまで駆り出すなんて」


 淀んだ深緑の視線を沈黙で躱して、肩を竦める。

 騎士団の人手不足については一介のバイトに過ぎない私がとやかく言うことではない。


 先生に押し付けようとしている不良債権が撒かれずに追いついてきた気配を確認して、本題を切り出すことにした。


「そういう第一師団は人手、足りてます?」

「は?」


 先生が目を見開いた。

 そして私が何故そんなことを聞いたのか察したらしく、見る見るうちに眉間に皺を寄せていく。


「ダメダメ、子どもがやるような仕事じゃないよ」

「いえ、私ではなく」


 私の意図とは異なる含みを読み取ったらしい先生の言葉を食い気味に否定する。

 

 第一師団、私が中二病真っ只中の年頃であったら所属してみたいと考えたかもしれないが、あいにくすでに人生2回目であり、そういった時期はとうの昔に過ぎ去っている。

 年頃を過ぎた人間は「何か闇の組織って感じでカッケー!」みたいな理由では仕事を選ばない。


 では何を理由に選ぶのかと言えば、定時で帰れて休みが取りやすくて福利厚生がきちんと整っているかを重視する。

 大人は黒の組織(ブラック)より白の組織(ホワイト)を選ぶのだ。


 その点で言えば第四師団は最高だ。シフト制だがきっちり定時で上がらせてくれるし、融通も効かせてくれる。

 さすがは騎士団随一のホワイト師団と言われるだけのことはある。


 そして仕事の合間にジム(代わりの訓練場)に通う。そんな平穏を私は愛していた。

 時々歯ごたえのある相手と手合わせをする程度で、ちょうどいい。


 背後を親指で示しながら、私は先生に必要以上に愛想よく笑いかけた。


「ヨウを引き取っていただけないかと」

「は?」

「ノー!」


 暗がりからヨウが飛びついてきた。半身をずらして回避してから、一歩後退して向き直る。

 私に縋り付こうとしてたたらを踏んだ彼は、不満げに唇を尖らせる。


「何を言うのデス、エリザベス!」

「一度きちんと第一師団で鍛えてもらってこい。諦めるのはその後でいいだろ」

「おいおい……東のお坊ちゃんじゃないの」


 先生の纏う気配が変わった。警戒の色が濃くなり、一歩こちらに歩み寄る。

 完全に「間合い」に入った。それを察知したのか、ヨウにもわずかに緊張が走ったのが分かる。


「グリードさんが引っ張ってったとか聞いてたけど……何でこんなとこフラフラしてるわけ」

「ワタシはエリザベスの護衛デス」

「付き纏いの被害に遭っていまして」


 ヨウの言葉を無視して答える。

 先生から滲み出る敵意がより一層濃いものになったことを鑑みると、先生もヨウの話は無視することに決めたらしい。


 ニヤついた笑いを引っ込めたヨウの顔をちらりと窺う。

 常にその顔をしていてくれた方がよほど仲良くしてやろうという気が湧くのだが。


 先生に安全性を伝えるため、ヨウに背を向けて話を続ける。


「気配の消し方は割とうまい方ですし、そちらで捨て駒として使ってもらえれば」

「いやいやいやいや……無理があるって。外交上の問題で安易に殺せないだけで大罪人よ、そいつ」

「そこはほら。先生なら安心してお任せできますから」


 そう告げると、先生が探るような目で私を見た。

 にこりと微笑みかけて、続ける。


「まさか子ども相手に後れを取ったり、なさいませんよね?」

「残念ながら、挑発に乗ってあげるほど若くないよ」


 やれやれと呆れた様子で苦笑される。


 設定ではまだ30かそこらだったはずだ。この令和の時代にその年齢で「若くない」などと言おうものなら各所からお怒りのお気持ちが寄せられるだろうが、まぁそこはティーンエイジャーが主役のゲームの世界なので仕方ないのかもしれない。


 五十代が「〇〇じゃよ」とか喋らされたりするからな。それよりは幾分マシなキャラ付けだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍最新6巻はこちら↓
i000000

もしお気に召しましたら、
他のお話もご覧いただけると嬉しいです!

転生幼女(元師匠)と愛重めの弟子の契約婚ラブコメ↓
元大魔導師、前世の教え子と歳の差婚をする 〜歳上になった元教え子が死んだ私への初恋を拗らせていた〜

社畜リーマンの異世界転生ファンタジー↓
【連載版】異世界リーマン、勇者パーティーに入る

なんちゃってファンタジー短編↓
うちの聖騎士が追放されてくれない

なんちゃってファンタジー短編2↓
こちら、異世界サポートセンターのスズキが承ります

― 新着の感想 ―
[良い点] 先生のくたびれ度がとても好きです!!! この先もっと疲れることになるんでしょうね……誰かさんのせいで……笑 [一言] 更新感謝です!!毎日お疲れ様です!!
[良い点] 更新感謝
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ