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モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
第2部 第6章 魔女編

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35.使わないなら、私に寄越せ

前回の更新日がいい兄さん(11/23)の日でした。

だから何? と言われると何なのか分かりませんが気づいたのでご報告します。




 訓練場でのバイトを終えて、街へと向かう。

 今日はこの後警邏の夜勤が入っている。シフトの時間にはまだ早いが、あたりが真っ暗になる前に第四師団の詰所に着いていたいところだ。


 そう思って歩いていると、どうにも妙な気配を感じる。

 心当たりを思い浮かべて……やれやれと頭を振った。


「おい」


 振り向いて呼びかけるが、返答がない。だが、無視して再度声を発する。


「いるのは分かってるぞ。出てこい」

「流石デスね、エリザベス」


 近くの脇道に落ちた影がわずかに濃くなったかと思えば、そこからにじみ出るように黒衣のヨウが現れた。

 立ち絵でも見たことのある、漢服をイメージしたらしい形の私服姿だ。


 私はため息をついて、シッシッと手で虫でも追い払うときのアクションをする。


「何でついてきてるんだ。グリード教官のとこに帰れ」

「嫌デス」


 拒否権があると思っているのか。

 本来罪人である彼の身柄は拘束されているべきで、こんなにふらふらと歩き回られては迷惑だ。

 一応は貴人のはしくれだからと捕虜扱いするにしても、それならば「嫌」とかどうとか、ずいぶんと態度のデカい捕虜ではないか。


 にやにやと貼り付けた笑顔で距離を詰めてくるヨウを、じとりと睨む。


「お前、本当に何考えてるんだ。恨まれる覚えはあるが好かれる覚えはないぞ」

「憎さ余って可愛さ百倍というやつデス」


 逆だ、逆。

 いや、逆もおかしいか。そもそも私には余る可愛さがない。


「護衛はいらない。裏切る護衛はもっといらない」

「護衛は言い訳デス。ワタシはアナタのそばにいたいだけデスから」


 もう言い訳とか言いきりやがった。


 一見人懐っこそうな笑顔を浮かべるヨウに対して、こちらはどんどん眉間に皺が寄っていく。

 どうにも会話にならない。諦めて、無視して歩き出すことにした。

 ヨウが斜め後ろをついてくる。


「ワタシが生きる理由は、もうありまセン」


 私は思わず立ち止まった。

 彼の言葉に驚いたからではない。

 まさかこんなところで場当たり的に、身の上話が始まるとは思わなかったからだ。


 正直嘘だろ、という気分だ。

 こんなもの、回避不可のライバルとのバトルイベントじゃないか。


 生きる理由だの死ぬ理由だの、そんなものに私を巻き込まないでいただきたい。生きるときは生きるし死ぬときは死ぬ。人間とはそういうものだろう。

 だいたい祖国に残してきた母親のことはどうした。それは生きる理由にはならないのか。


 歩く速度を早めてみたが、ヨウの気配は変わらず私につきまとってくる。


「本当はアナタに殺されて……敵国の、仇に殺されて。それであっさり死にたかったデス。でもアナタはワタシを殺してくれなかった。死なせてもくれなかった」


 まるで私のせいのように言われるが、知るか、そんなもの。

 前にも言った気がするが、私にだって相手を選ぶ権利というものがある。殺す相手くらい選ばせてほしい。


 だいたい敵対している相手に「殺してくれ」と頼まれて応じてやる親切な人間がどれほどいるのだろう。

 それこそ元は仲間だった相手に「コロ……シテ……」とか言われたら考えないではないが……いや、それだってお断りだな。いらない業は背負いたくない。


 私のようなモブではなく、主人公とか攻略対象とか、そういった暗い過去が似合う人間が背負うのが道理というものだ。

 謹んでお譲りさせていただく。


「ワタシにはもう、何もありまセン。もう……アナタしかいないのデス。アナタを恨むしか、ワタシにできることはもう、残っていない」

「じゃあ護衛だの何だのまどろっこしいこと言ってないで寝首を掻きに来いよ。相手してやるから」

「残念ながら、力量差がありすぎマス。どんな騙し討ちでも敵いそうにありまセン」


 ヨウがゆるゆると首を横に振る。


 確かに現時点の力量差では、彼が私に勝つには気の遠くなるような年月が必要かもしれないが……隠しキャラとはいえ攻略対象だ。

 ポテンシャルだけで言えば私では到底敵わないほどのものを持っているはずである。チート的な能力が突如として開花しないとも限らない。


 恨むというなら、諦めずにそれこそ殺される覚悟で掛かってくるのが定石ではないのか。

 それなのに、これではせっかくのポテンシャルも宝の持ち腐れである。

 使わないなら、私に寄越せ。


「簡単に捕えられて、きっと殺してももらえまセン」

「頑張って鍛えろ」

「人間には限界というものがありマス」


 へらへらと笑うヨウ。まるで私が人間ではないとでも言いたげな言葉選びだった。

 そんなにあっさり諦めるくらいなら最初から恨むな。


 限界は作るものではない、越えるものだ。

 真のトレーニングというのは「もう無理だ」と思ったところから始まる。筋トレ界では有名な金言である。


 トレーニングは突き詰めて考えれば「やるか」「やらないか」の二者択一でしかない。

 誰かが「やれ」と命令することはできるが、最終的に「やる」という決断を自分自身でしなければ何も始まらない。


 「今日もやるか」「今日はやらないか」、その問いかけへの答えが一日の成果を決める、というのもトレーニーの間では有名な言葉である。

 その答えが今日の私を作る。その成果の積み重ねが私を作るのだ。

 ここで「やる」という選択をしないのならば……スタートラインには立てない。そういうものだ。


「デスから、出来る限りアナタの傍にいて、ワタシに情を抱いてもらうところから始めようかと」

「は?」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 控えめに言ってヨウが最高にキモいのが素晴らしいです。
[良い点] 更新感謝
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