39.天啓
軟派で、軽薄で、チャラついていて、女の子にやさしい。
そんなキャラクターに、心当たりのある女性は手を挙げてほしい。
私は、ある。すっごいある。
たいてい普段は軽口を叩いているくせにやるときはやるタイプで、実はものすごく強かったり、ついでに暗い過去があったりする。
本当に好きな女の子にはぐいぐい行けなかったりする。
ふいに見せるさみしげな表情や、好きな子のピンチに必死になる様にギャップを感じてきゅんと来たりする。
乙女ゲームや少女漫画に、1人はいるタイプだ。
そして幸いなことに、この「Royal LOVERS」にはいないタイプだ。
当たりがやさしいので、初見で嫌われるという危険性も少ない。少なくとも鬼軍曹よりはニッチではないはずだ。
女子ウケすることは、今の私が身をもって体感している。
人には向き不向きがある。
私には、アイザックのような委員長系や、クリストファーのようなかわいい系は向いていない。本物の王子様が2人もいる中で、王子キャラをやる勇気も私にはない。
しかし、軟派キャラならいけそうな気がする。
すでに街の女の子相手に「子猫ちゃん」とか言っちゃっているあたり、素養は十分だと思う。
ちなみに言う側になって気づいたのだが、あのセリフは別に相手をかわいいとか、本当に子猫に似ているなとか思って言っているわけではなかった。
では何故そう呼ぶのかと言えば、不特定多数の女子の名前をいちいち覚えていられないからだ。
知りたくなかった真実である。
もし今後人生で「子猫ちゃん」と呼ばれる側になったとしても、「ああ、名前を忘れたんだなぁ」と思ってしまって素直に受け取れないと思う。
殿下の言葉がまるで天啓のように思えた。道が開けたように感じた。
これが王の器と言うやつだろうか。いやぁ、殿下のおかげで我が国はこの先も安泰だな。
今にして思えばヒントはたくさんあったのだ。
自然と侍女にウインクをしたり、荷物を持ってやったり。街の女の子に手を振ったり、年配の女性に「お嬢さん」と呼びかけてみたり。
私がそういった行動を取ることで、女性が喜んでくれるのだということを認識していた。
だが、前世で現実にそんな男がいただろうか。答えは否である。
私は無意識のうちに、自分が持っている二次元のキャラクターの引き出しから、自分に適した設定を選択して利用していたのである。
答えはその延長線上にあったのだ。
騎士なのに軟派、でもいいし、軟派なのに実は騎士、でもよい。可能性は無限大だ。
「何をにやついているんだ?」
怪訝そうな表情の殿下に、私は思わず自分の頬を触る。
そうか。にやついていたか。しかしそれも、宜なるかな。
エリザベス・バートン、14歳。この日は、私の方向性が固まった記念すべき日になった。





