30.第一師団、こんな感じか
「第一師団、こんな感じか」
独り言ちながら、倒れた先生を横目に剣を鞘に戻す。
正面から本気でやり合えば、ロベルトよりは強いだろう。
だが、第十三師団の師団長と近衛の師団長、あの二人には及ばない。そのくらいの強さだった。
いや、どうだろう。私も最近彼らと再戦したわけではない。
結構頻繁に羆とじゃれあったりしているし、私が強くなっていることを加味すれば……いや、それでもあの2人より強いということはなさそうだ。
良くてトントンといったところだろうか。
確かにスピードは凄まじかった。
たとえば私がどこかの第十三師団の師団長のように、最初の一撃を躱さずに「受ける」という判断をしていたら、死んでいたかもしれない。
だがあまりに正確に急所を狙うその必殺の一撃は、予測の立てられないものではなかった。
それ故に躱すという選択ができ、そして飛んできた刃を打ち払って踏みこむところまで、無理なく持っていくことが出来た。
続け様に私が撃ち込んだ一太刀を、彼は手に持ったナイフで防いだ。
だが、当たった。スピードと隠密行動重視の相手に、攻撃が当たったのだ。
初撃を防いで、こちらの攻撃を当てられた。
そうなればもう、こちらのものだ。
だまし討ちじみた初撃に対応できたのだ。さらに二撃目以降はスピードにも徐々に目が慣れていく。
パワーとスタミナはこちらが上。
であれば時間が経てば経つほど、向こうの優位が消えて私が優位に立っていくのは必然だ。
加えて彼が振るっているのは、二撃目からは明らかに、戸惑いの含まれた刃だった。
相手に気取られず、躱されず、受けられず。
一撃で殺すことを目的としているのだろう。暗殺部隊としてはそれが正しいのかもしれない。
技巧自体は今まで戦ったどの相手より上だ。
初撃で殺せていれば、彼の勝ちだったはずだ。
きっと、そんな戦い方ばかりしてきたのだろう。
二撃目を放つのは、それこそ万が一の討ち損じを始末するときくらいのもので……一撃目を受け流してなお元気一杯の相手を前にしての対応に慣れていないのが、ひしひしと伝わってきた。
「殺せない相手」に何をするのか。
それを自分自身で理解していない戦い方だ。
自分の実力では殺せない相手と、本気でやりあったことがないのだろう。
そしてその行動はどこまでも……一人で戦うことに特化したものだった。
せめて手傷を負わせてやろうとか、一矢報いてやろうとか。
後に続く仲間のために、少しでも相手を万全ではない状態にしておこうとか。
そういう意志のない太刀筋だ。
騎士団の騎士ではなく、暗部の殺し屋としての戦い方だ。
ある意味でそれは、強者の太刀筋なのだろうが……私からしてみれば、そういうときにあの手この手であがくことの出来る人間の方が、強い。
結局そこから先は、消化試合だ。ほとんど弱いものいじめと言って差し支えない展開で――私は勝利したのだった。





