表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
第2部 第6章 魔女編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

403/598

26.あの日

 気配を殺したまま、渡り廊下を進む。

 殺気の主もこちらに向かっているようだ。

 この殺気を隠せるような手練れだ。隠していてもある程度の動きは悟られているだろう。


 渡り廊下の奥に、人影を捉えた。

 その姿を見た瞬間、ふっと私の警戒が緩む。


 それは私の知っている人物で……そして。

 殺気を発することも、隠すことも。容易に熟せるような相手だったからだ。


「何だ。先生でしたか」


 気配を隠すのをやめて、人影に向かって手を挙げる。

 人影は誰あろう、私のクラスの担任教師、カイン・フィッシャー先生だった。


 第一師団所属の彼であれば、あれほどの殺気も、それを隠せることも。

 そしてこうして学園にいることも、すべてに説明がつく。


 何のことはない。きっと先生も聖女に仇なす可能性のある魔女を排除すべく見回りをしていたのだろう。

 これなら殺気など無視して、魔女探しを続行していればよかった。今は目の前の殺気に飲まれてしまって、魔女らしき足音の主の気配は探れない。


「妙な気配がするから、誰かと思いましたよ」


 へらりと笑った私の言葉に……しかし先生は、その身にまとった殺気を消しも隠しもせず、そこに突っ立って私を見つめていた。


 はて。

 違和感を覚えて、先生に近寄ろうと歩いていた足を止めた。


「どうして安心する」


 先ほどから沈黙していた先生が、やっと口を開いた。

 その声はひどく低く、落ち着いていて……普段の、教師としての彼の無気力そうな声音とはまた違う、感情の抜け落ちたようなものだった。


「殺気の主がおれだと知って、どうして安心するんだ」

「え?」


 その言葉に、私は己の失策に気づいた。


 しまった。

 先生が第一師団の所属であり聖女を陰から守っていることは、ゲームのプレイヤーには周知のことだが、この世界では秘匿されている情報だ。


 教員の中には知っている者もいるかもしれないが……一介の生徒たる私が、知るはずがない。

 ただの物理の教師が殺気の主だと知って安堵する理由など、ないのである。


 ここでの正しい反応は「何故先生がこんなところに」とか、殺気には気づいていないふりをすることだったのだろう。

 そして夜遅くまでうろうろしていることを怒られてアイザックと一緒に帰路につく。それが正解だったのだ。


 だが、こちらも気配を殺して近づいておいて、今更それは無理がある。

 思考をフル回転させて、それなりに取り繕うための言い訳を探す。


 先生だって第一師団の仕事でやっているのだ。

 私のような者にかかずらわって時間を使うよりも、本音は魔女を追いたいはずだ。

 「それなり」の言い訳さえあれば、その殺気を引っ込めてお互い違和感には目をつぶるのが得策だと、そう判断してくれるだろう。


「先生が相当の手練れであることくらい、普段の身のこなしを見ていれば分かります。私にもそれなりの心得がありますから」

「…………」

「まぁ、どうしてそんな人間が教師をやっているのかは、知りませんけど」


 咄嗟に思いついた中で、見栄えの良い理由を口に上した。

 そしてややわざとらしくはあるが……こちらには探る気がないことも付け加える。


 お互い痛くもない腹を探られたくはないはずだ。

 これで納得して、手打ちにしていただきたい。


「……お前」


 私の思いも虚しく、次に先生が発した声は、非常に重苦しく……そして、冷たいものだった。


「覚えているな、あの日のことを」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍最新6巻はこちら↓
i000000

もしお気に召しましたら、
他のお話もご覧いただけると嬉しいです!

転生幼女(元師匠)と愛重めの弟子の契約婚ラブコメ↓
元大魔導師、前世の教え子と歳の差婚をする 〜歳上になった元教え子が死んだ私への初恋を拗らせていた〜

社畜リーマンの異世界転生ファンタジー↓
【連載版】異世界リーマン、勇者パーティーに入る

なんちゃってファンタジー短編↓
うちの聖騎士が追放されてくれない

なんちゃってファンタジー短編2↓
こちら、異世界サポートセンターのスズキが承ります

― 新着の感想 ―
[良い点] 遅くなりましたが、 投稿お疲れ様です&ありがとうございます! 続きが気になる終わり方ナンバーワンすぎっ…!! シリアスな展開のはずなのに、いつも通り笑ってしまいました。 次回も楽しみに…
2022/11/07 18:09 退会済み
管理
[良い点] 更新感謝
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ