34.不敬になってしまいますので
私は気が短い方だと思う。
ぼんやり取り留めのないことを考えるのは好きだが、うじうじ悩むのは苦手だ。我慢が苦手で、身体を動かす方が性に合っている。
人の話を長々と聞くのも、得意ではない。気を抜くと2回目くらいから生返事になる。
だというのに、私はまたも、王太子殿下に呼び出されていた。
今日は警邏の帰りを捕まったのである。
前にも言ったが、私は忙しい。14歳になってから、ますます忙しくなっていた。
訓練場の仕事に警邏に、そして学園入学のための勉強にと、朝から晩までやることが盛りだくさんだ。
そして、一番重要な攻略対象としての特徴探し。王太子殿下の暇つぶしに付き合っている時間はない。
そもそも論、何回も当たり前のように呼びつけてくれるが、用事があるのはそちらなのだから、たまには出向いてきたらどうなのだ。
出向くほどではないな、という程度の用件であれば、人を呼びつけるのもやめていただきたい。
今回は近衛騎士に「ちょっと予定が」と断ろうとしたのだが、「そういえば、先日ドアが壊されていた件について何かご存知ですか?」と脅されたのでノコノコ着いてきた。
悲しいかな、身分の高い相手に対して強く出られないのが貴族のつらいところである。
今日の王太子殿下は、最初から物憂げモードだ。机に頬杖を突き、薔薇の蕾のような唇からため息をこぼれさせている。
帰りたい。
「きみは、ロベルトをどう思う?」
「どう、といいますのは?」
求められている返答が分からず、聞き返す。
そろそろ居合いか何かで、触れずして相手を気絶させられるようにならないものだろうか。そうしたら簡単に、穏便にこの謎の時間を終わらせられるのに。
殿下は眇めた瞳で私のことを探るように見やりながら、言葉を重ねる。
「王に向いていると思うか?」
「……私の口からは、何とも。不敬になってしまいますので」
「……その返答自体が不敬だとは思わないのか?」
殿下の問いに、私は無言で返す。それが答えだとご認識いただきたい。私の意図は伝わったようで、殿下も黙ったままだった。
親しくない相手との無音の時間ほど無駄なものはない。適当に切り上げようと、私は王太子殿下のご機嫌取りを試みる。
一応貴族の端くれ、多少は相手のご機嫌取りの心得もある。
「心配されなくても、ロベルト殿下は王位など狙っておられませんよ。王になるのは貴方様です、殿下」
「……私は、王にはなれない」
失敗した。慣れないことはするものではない。
そして聞きたくないことを聞いてしまった。また「忘れてくれ」と言ってくれないだろうか。
これからの展開が読めてしまい、長くなりそうだと私は心の中で舌打ちをする。
殿下は、私の予想通りの言葉を口にした。
「私は、病で先が長くないんだ。医師には持ってあと2、3年だと言われている」
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初めて誤字脱字報告の機能を使ったので、感動しました。





