36.槍でも剣でも蹴りでも、どうぞご自由に
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護衛たちがどたばたと走り回った結果、競技場の一角を借りてマリー王女と手合わせをすることになった。
今日の今日でいきなり国営っぽい施設を借りられたのは、王女様と隣国の王太子様の権力のおかげである。
使えるものは最大限に利用するに限る。
護衛騎士たちの疲れた顔は見ないことにする。
ここで少々走り回っただけでこの後マリー王女の我儘に振り回されずに済むのだから、よしとしてもらいたい。
借りたのはフェンシングなどの室内競技で使うスペースだ。
私の思う通りに事が運べば、こんなに広さはなくても良いのだが。何なら外でもよかったくらいだ。
マリー王女が動きやすい服装に着替えて現れた。手には槍を携えている。
なるほど、槍術か。小柄な女性がリーチ差を補うために扱う武器としてはなかなか良いチョイスだ。
日本でも薙刀は武家の女性が習うものというイメージがある。
薙刀と槍では成り立ちがずいぶん違うので、一緒にするものでもないと思うが。
武士と言われると何となく刀のイメージが強いが、戦国時代の足軽は実際のところ槍で戦っている者も多かったとか。
近世使われていた銃剣にも槍術が生かされていたと聞くし、卓越した技術のない歩兵向きの武器としては槍というのはかなり使いやすさとアベレージの総合力が高いものなのだろう。
さておき、小柄な女の子が大きな武器を携えている様子と言うのはなかなか風情があってよい。
対する私は丸腰だ。軽くストレッチをして、マリー王女に向き直る。
彼女は足を半歩開いて、槍を構えた。
ふむ。なかなか堂に入った所作だ。
「いつでもいいわよ!」
「その前に、ルールを決めましょう」
「ルール?」
「私は武器は使いませんが、マリー殿下は何を使っていただいても構いません。槍でも剣でも蹴りでも、どうぞご自由に」
話し出した私に、マリー王女が構えを解く。
きちんと人の話を聞けるあたり、我儘に見えてちゃんとしている。
説明を聞くと言うのは、武術をする上で必要な素養だ。下手に扱いを誤ると怪我をする。案外真面目に槍術を習っているのかもしれない。
だからこその自信なのだろうか。
まぁ、自信があるのは良いことだ。実力が伴っているに越したことはないが。
私はマリー王女に向かって、軽く両手を上げて見せた。
「ただし、こうして両手を上げて10秒経ったら、降参と見做します」
「ふぅん。そんなルール、あたしはいらないけど……あんたにはあったほうがいいかもしれないわね」
不敵に笑うマリー王女。
多少の心得はあるらしいが……力量の違いを見極めるほどの実力はないらしい。
どこかで痛い目を見る前に現実を教えてやるのがやさしさというものだろう。恨むのなら、過保護にしてきた護衛や周囲の騎士たちを恨んでほしい。
私はにっこり微笑んで頷くと、殿下に呼びかけた。
「では、殿下。合図をお願いします」
じとりと私を睨んでいた殿下が、ため息とともに一歩前に出る。
そして、すっと右手を前に差し出し、勢いよく上に上げた。
「始め!」





