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モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
第1部 第1章 幼少期編

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2.モブ同然の悪役令嬢とチョロい婚約者

 普通……何をもって普通なのかはわからないが……7歳児の脳味噌に前世の記憶が流れ込んだら、パンクするんじゃないだろうか。

 人ひとりの一生分の記憶だ。許容量を超えて、パニックになったりするんじゃないだろうか。


 しかし今の私はひどく冷静で落ち着いていて、正常だ。

 前世のことをすっかり受け入れてもなお、明日の晩ご飯のことを考える余裕すらあった。


 特に病気や事故で若くして死んだという記憶もなければ、はたまた天寿を全うして孫ひ孫玄孫に見送られて大往生したという記憶もない。

 誰かを恨む気持ちも、世を儚む気持ちもない。憎かったものといえばせいぜい所得税と住民税ぐらいだ。


 ともすれば公爵令嬢としての7年の方が濃く感じてしまうくらい、密度が薄いのである。

 普通の人生をカツ丼だとするならば、私の前世は重湯である。いや重湯とか今世では食べたことないのだが。


 果たしてそんな人間がいるものだろうか。7歳児に厚みで負けるような一生を送った人間など、いるものだろうか。

 仮に、もし、万が一いたとしたら――それはなんとも、悲しいことではないか。

 そう考えていると、だんだんと背筋がそら寒くなってきた。


 やめよう。

 きっとまだ思い出したばかりだから、記憶が歯抜けになっているのだ。

 そもそも前世の記憶なんてものがイレギュラーなのだから、曖昧だったり十分に思い出せなかったりするのが普通なのかもしれない。

 そうだ。私が思い出したのはほんの断片に過ぎないのだ。だから重湯程度の濃度なのだ。そうに違いない。


 私はそう結論づけ、前世の自分について考えることをやめにした。

 私にとって大切なのは、可哀想だったかもしれない前世の自分より、今まさに生きていて可哀想な目に遭うかもしれない今世の自分のことだった。

 過去の自分のことをぐるぐる考えて、憐れんでいる余裕はない。何故なら我が身が可愛いので。


 私が転生したのは、乙女ゲーム「Royal LOVERS」の、悪役令嬢……というのもおこがましい、ほぼモブ同然のキャラクターだった。

 攻略対象の一人と婚約しているいわばお邪魔キャラで、主人公に意地悪をしたり、攻略対象にちょっかいをかけたりと、実質主人公と攻略対象の恋が燃え上がるお手伝いをするような役割だ。


 最後には主人公に意地悪をしたり攻略対象にしつこく付きまとったことを理由に、学園祭のダンスパーティーのエスコートを公衆の面前で断られ、赤っ恥をかく。

 その後は特に描かれていないが、メインストーリーはどれも主人公と攻略対象の結婚式かそれを匂わせる描写で終わるので、主人公が私の婚約者ルートに進んだ場合は婚約は破談になるのだろう。


 そうなれば公爵家の恥さらしとして後ろ指を指されることは必至で、その後はまともな家に嫁げないかもしれない。行かず後家としてお兄様の継いだ家で一生を終えるかもしれない。

 現代日本ならいざ知らず、貴族のご令嬢は10代のうちに嫁に行くのが当たり前の世界観で、貴族のほぼトップに座す公爵家のご令嬢がそれではあまりに肩身が狭い。


 主人公が他のルートに進んでくれれば良いのだが、あいにく私の婚約者はとにかくチョロいことで有名だった。パッケージでも目立つところに描かれたメインの攻略キャラだけあって、意識しなくてもぐんぐん好感度が上がるのだ。

 付いたあだ名が「チョロベルト」。


 ルート分岐前の「星の観測会イベント」でそのとき一番好感度が高いキャラがわかるのだが、他のキャラ攻略中にもかかわらず出現し「お前じゃねぇよ!」とゲーム機を放り投げたことが何度もある。

 主人公が普通にストーリーを進めていけば、まず間違いなく我が婚約者殿のルートに入るだろう。


 現時点の私はといえば、特段婚約者殿に思い入れはない。

 ゲームの中でも、モブ悪役令嬢ことエリザベス・バートンは彼本人が好きだからというより、庶民の娘に婚約者を奪われることや、公爵令嬢の自分を蔑ろにする婚約者の言動に腹を立てて邪魔立てしているという印象だった。


 前世の記憶が甦ったとはいえ、7年間公爵令嬢として育てられた私にもプライドはある。ポッと出の庶民の娘にちょっと優しくされたくらいでコロリと落ちて、婚約者を捨ててしまうようなチョロい男はこちらから願い下げである。

 仮に結婚したとして、そういう男は飽きてきた頃に同じことを繰り返す。絶対にだ。そんな男と結婚しても、私に幸せはやってこないだろう。今すぐに婚約を破棄できればよいのだが、そうもいかない理由がある。


 私の婚約者は、誰あろうこの国の第二王子、なのだ。


 いくら国内随一の貴族といえど、王族との婚約を「娘が嫌がっているので」と拒否できるはずがない。あちら様とて、有力貴族である我が家とのパイプは是非とも欲しいだろう。

 そうでなくとも、先日私が7歳になったときに結んだばかりの婚約である。世間体も考えれば、たいした理由もなく破棄はできない。


 かといってそのまま17歳を迎えれば、こちらが「難アリ」のレッテルを貼られた上での婚約破棄。行かず後家まっしぐらである。頭を抱えるばかりだ。

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