19.縛り方は私の趣味ではない。断じて。
下手人の尋問は近衛騎士たちに一任した。
正直に言えば、尋問の類はあまり得意ではないのだ。
ぶん殴ってはい終わり、ならいいのだが、気絶させないようにと思うと加減が難しい。
やりすぎてしまった場合取り返しがつかなくなることも考えられる。
訓練場のグリード教官などはそのあたりも結構得意らしいが、同じ騎士とはいえ向き不向きがある。
適材適所だ。
それで言うなら、クリストファーには争い事は向いていない。
窮鼠猫を噛むというか結構な泥仕合だったらしく、彼が相手をしたという斥候は何ともひどい有様だった。
痛い痛いと喚いてばかりで、結局使い物にならなかったのだ。
早々にその場で話を聞くのを諦めて、拠点まで担いで戻ることになった。
まぁ結果として近衛騎士に丸投げ出来たので、プラマイゼロというところか。
具体的な描写は避けるが、切れ味のよい刀で達人が切るのと、切れ味の悪い刀で素人が切るのとではどっちが痛いか、という話が近いのかもしれない。
クリストファーには2度と剣を握らせまいと誓った。
拠点から街が近かったので、そこに駐在している警備兵を呼び寄せ、種々様々な縛り方で拘束した連中をまとめて引っ張って行ってもらった。
大半がまだ気絶していたようだが、目が覚めて自分が菱縄縛りされていることに気づいたらどういう反応をするのだろうか。
少々気になるような、気にしたら負けのような、微妙なところだ。
雑木林から次々に運び出される一団を見て、最初は真面目な顔をしていた近衛騎士たちが、だんだんと淀んだ目になっていった。
そしてUMAでも見るように私を見ながら「羆殺し……」「一個師団殲滅……」「爆破……」「SM……」とか何やら物騒なことを囁きあっている。
羆以外は心当たりがない。そもそも羆とだって引き分けだ。
尾ひれがつきまくって最早そちらが本体になっている。
あと縛り方は私の趣味ではない。断じて。
翌朝事情聴取に立ち会った近衛騎士に聞いたところ、最近西の国で増えているという人攫いとのことだ。
何でも女性を攫っていくと高値で買い取る者が裏にいるらしく、強盗やチンピラがこぞって人攫いにジョブチェンジしているそうだ。
風光明媚な観光向きの国と聞いていたのだが、ずいぶん治安が悪いではないか。
だが、前世の先進国であっても国境付近は情勢が不安定な国も存在した。
況や中世ヨーロッパ的世界観のこの国をや、である。
海に囲まれた島国とは、そのあたりの感覚が違うのも無理はないだろう。
西の国に入ったのもあって、西の国側からも警護の兵が付くことになった。
どうも最初からその予定になっていたらしい。道理で護衛が少ないと思ったのだ。
人数が増えてからは特にトラブルもなく――私が退屈に辟易した以外は。せっかくなので西の国の兵にも手合わせを頼んでみたが、近衛と大差ない歯ごたえのなさだった――予定通りに西の国の王都へ到着した。
いよいよ敵の本陣に殴り込みである。





