14.ちょっとパワーワードすぎやしないだろうか
すみません、前回の「13.護衛の仕事をするだけです」について、冒頭10行分くらいが抜けた状態で更新してしまいました。
1/4現在修正済みですので、1/3にご覧になった方はもう一度前話からご覧いただけますと幸いです。
「姉上!」
休憩のために馬車を降りるや否や、クリストファーが慌てた様子で駆け寄ってきた。
「大丈夫でしたか? 何もされませんでした?」
「『何も』って?」
「だってあの人、卒業式の時、幼気な姉上の、く、唇を」
「幼気な姉上」
謎の単語を口走る義弟に、それから先の言葉が頭に入ってこない。
ちょっとパワーワードすぎやしないだろうか、幼気な姉上。
そこまで私に似合わない形容動詞もそうないと思う。
少なくともクリストファーより幼気であるつもりはない。
どうにも我が義弟、お兄様の真似をして私を子ども扱いすることがあるので少々困っている。
以前も「姉上に恋愛はまだ早い」とか言われた気がする。
実年齢的も見た目年齢も私の方が上であるし、精神年齢で言えば人生1回分私の方が上のはずなのだが。
「クリスくん、あんまり言うとエリ様が逆に思い出しちゃいますよ」
クリストファーの後から馬車を降りてきたリリアが、宥めるように言う。
……うん?
何だか違和感があるような。
はて、何だろう。
「変に意識されるより、忘却の彼方に追いやってもらったほうが都合いいじゃないですか」
「それは、そうかもしれませんけど……ていうかリリアさんだって同じことしましたよね!?」
「悲しいことに、それも忘却の彼方っぽいんですよね……」
がっくり肩を落とすリリア。
そこではたと違和感の正体に気が付いた。
リリアとクリストファーの仲が良くなっている。
人見知りでコミュニケーション能力に少々難のあるリリアが、クリストファーとスムーズに会話をしているのだ。
そう気づいて思い返せば、「クリスくん」とか呼んでいたような。
今まで「クリストファー様」だったのに、どういう風の吹き回しだろうか。
私が馬車を移動してからのほんの半日で、何が起きたのか。
「リリア、どうしたの? 馬車で転んで頭でも打った?」
「いきなり失礼なこと言うのやめてもらえます?!」
「いや、急に仲が良くなったみたいだから」
私の言葉に、リリアが勢いよく顔を上げる。
妙にギンギンと見開かれた目に、無意識のうちに踵が後ずさる。
「まさかエリ様、ヤキモチですか!?」
「違います」
「そんなに照れなくてもぉ」
「照れてません」
リリアがぐいぐいと詰め寄ってくるのでそっと距離を取った。
だいたい他の誰かと仲が良くなっただけでヤキモチを妬く男というのはどうなのだ。
少々嫉妬深すぎるのではないか。
嫉妬をされて嬉しいのか、という問いへの答えとしては、リリアが目をぎらつかせているのを見るに嬉しいのだろう。
だがお互い頭がお花畑のうちは良くても、少し時間が経った頃に同じことをされたら絶対に煩わしく思う時がくる。
だからといって嫉妬深い人間が煩わしく思われない程度に加減をした嫉妬をできるとは思えない。
結果としてあまり良い人間関係が築けているとは言い難いと思うのだが。
白けた顔をしている私に、リリアは何故か自慢げに胸を張った。
「共通の敵がいると絆は深まるものなんですよ、エリ様」
「共通の敵が、何だって?」
後ろから降りてきた殿下が口を挟んできた。
先ほどとは打って変わって、いつもの貼り付けたような王太子スマイルだ。
リリアは一瞬殿下と視線を交差させたものの、殿下の問いかけには応じず、クリストファーと顔を見合わせて「ねー」と微笑み合っている。
共通の敵、と言われて納得した。
確かにこの旅路を共にする以上、西の国ーーないしはその王女様という、共通の敵がいるということになる。
リリアもクリストファーも学園があるし、早く用事が済むほうが良いだろう。
みんなで仲良く共同戦線、ということだな。
それならば私も歓迎するところだ。
むしろこのままリリアとクリストファーが仲良くなってくれても私は一向に構わない。
リリアが義妹はちょっとと思わないではないが、義姉よりはマシだ。
問題は殿下もリリアに気があるらしいというところだが……そこは乙女ゲームの主人公なのだから、うまくやってくれとしか言いようがない。
この類の話をするとリリアに怒られるので言わないが。
どうも面白半分で言っていると思われているらしい。
確かに面白半分ではあるが、もう半分は「早く私を解放してくれ」という切実な気持ちなので、不真面目なわけではないのだが。





