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モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
第2部 第5章 西の国編

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8.だって、お兄様が謝らないから

「姉上!」


 サロンの入り口から、クリストファーが転がり込んできた。

 走ってきたようで、肩で息をしている。


「クリストファー? どうしたの?」

「西の国、ぼくも一緒に行くことになりましたから」


 ふんふんと鼻息も荒く宣言された。

 我が家からお目付け役がついてくることは想定していたが、てっきり執事見習い(フットマン)の誰かだと思っていた。それか、対抗で侍女長。


 クリストファーがついてくるのは予想外だ。

 彼も学園を休まなくてはならなくなるので、お父様あたりは反対しそうなものだが。


「姉上を一人で行かせたら、何が起きるか分かったものじゃありません。兄上の代わりにぼくがしっかり見張るようにと、父上からも言いつけられました」


 読まれている。

 私が何を考えているかなど、家族には筒抜けのようだ。

 それでは確かに、執事見習いでは荷が重いだろう。


 今回はお父様とも利害は一致しているはずなのだが、娘の愚行はそれとは別問題らしかった。

 私とクリストファーのやり取りを眺めていたリリアが、ふと独り言のように零す。


「じゃあ、お兄様はお家でお留守番ですか」

「……うん。まぁ」


 首の後ろに手を回しながら、答えた。

 わずかに言いよどんだのを聞きとがめて、リリアが私の顔を覗き込む。


「仲直り、してないんですか?」

「……してない」


 視線を逸らしながら、呟くように答える。


「ていうか私が西の国に行くことになってから悪化した」


 そう。お父様が許可した私の西の国行きに、お兄様が猛烈に反対したのである。

 自分のためにそんなことはさせられないとか、危険だから僕も一緒に行くだとか、勉強についていけなくなって留年するとか。


 今回はお父様も珍しく――本当に、天変地異と言っていいレベルで珍しく――私の味方なので、お兄様の訴えは退けられたが、お兄様の言い分を聞いて私はますます機嫌を損ねた。

 勝手なことを言う。


 まずもって、お兄様のためではなく私のためだし、私が危険だというならお兄様が行くのだって危険なはずだ。

 そして物理的な危険への対処能力で言えば、私の方が断然高い。

 リスクを減らすことを目的にするなら、私が行く方がよいに決まっている。


 最後の心配は、まぁ、……留年したとて死ぬわけではない。

 アイザックにも匙を投げられたら、最悪クリストファーと一緒に卒業しよう。


 私の様子を横目に見て、クリストファーが苦笑した。


「いつも兄上が怒ると姉上が慌てて折れるのに。今回は意地になってるみたいで」

「だって、お兄様が謝らないから」

「この調子なんですよ」


 肩を竦められた。

 お兄様の真似をしているのか、いつまで経っても「手のかかる姉」扱いをされている気がしてならない。


 だが、こうして西の国への同行を取り付けるあたり、彼も私と同罪のはずだ。

 お兄様は、弟妹揃ってなんと手がかかることかと思っていることだろう。


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― 新着の感想 ―
[良い点] リジーのこういう家族に対して全力で駄々こねるとこは妹っぽくてかわいいですね。クリストファーは大きくなっても不思議と子犬感が抜けないのがらしいなと思います。 [気になる点] リジー、お兄様は…
[良い点] 更新感謝
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