7.山に行っては羆と相撲
前書きを書き忘れましたが、昨日から毎日更新週間になっております!
どうぞよろしくお願いいたします。
リリアの買収に成功し――これで万が一私が何かしでかしたときにも怪我の心配をしなくて良くなった。無論、相手の怪我の心配である――、西の国への殴り込み、もとい視察の予定について話し合った。
と言っても、出発は2週間後に迫っている。悠長に構えていられるようなものではない。
殿下側の都合に合わせた結果、先日の一件から実に一か月足らずで西の国に乗り込むという強行スケジュールとなった。
普通の旅行であれば余裕のある日程かもしれないが、王太子の視察としては相当な早業である。
「あの……正直言いづらいんですけど……エリ様、大きくなってますよね……?」
「ああ」
リリアの指摘を、私は首肯する。
乙女ゲームの期間が終わり、女の子ウケを考えなくて良いと思った瞬間から、解き放たれてしまったのだ。
筋トレ制限から。
特に春休み期間は暇を持て余してしまい、山に行っては羆と相撲を取るという日本昔ばなしのような生活を送っていたせいで、バンプアップが著しい。
ゴリゴリとまではいかないが、細マッチョの範疇からは片足はみ出しているような状況である。
「全盛期に戻す」
「全盛期」
「君を落とした頃に戻す」
あの頃の私は女性ウケという意味ではまさしく全盛期だっただろう。
1か月足らずでどこまで戻せるかは不明だが、涙を飲んで日々の筋トレを控え、訓練場通いをセーブし、タンパク質中心だった食事制限も解除している。
聞くところによると、トレーニングをやめて3週間程度で筋肉中の水分とグリコーゲンが失われ、見た目上は筋肉が落ちたように見えるらしい。
あと2週間で効果が出ることを祈るばかりだ。
「髪も伸ばそうかなと思ったけど。さすがにそれは間に合いそうにない」
「普通逆なんですよ、エリ様。男装の必要性がなくなったら髪は伸ばすんですよ、一般的には」
「キャラ被りを気にしなくて良くなったからね」
自分の前髪をつまんで、光に透かす。
乙女ゲームの期間が終わってからというもの、髪を切るたびに「もう少し短くてもいいか」を繰り返していたので、今は学園入学時くらいの長さまで戻ってきていた。
何せセットの手間がかからないのだ。しかも短ければ、セットしていなくても「顔面が18禁」だのなんだのという不名誉な誹りを受けることがない。
それが分かってから、もう私を止めるものは何もなかった。
我ながら似合っていると思う。すぐに乾くし、洗うのも楽だ。デメリットが存在しないのである。
強いて言うなら、ロベルトとお揃いはちょっと――いや、だいぶ嫌なので、まだしっくりくる髪型を模索中ではあるが。





