バートン様友の会会報作成会議
お久しぶりの更新です。
読んでくださった皆様にお知らせしたいことがあって番外編を引っ張り出してきました。
活動報告にモブどれ関連のお知らせを載せていますので、よろしければご確認ください。
三人称視点、バートン様友の会のご令嬢の小話です。
ちなみにエリザベスはもちろん他の攻略対象も出てきません笑
「それでは第24回、バートン様友の会会報作成会議を始めます」
その言葉を号令に、すっかり生徒が帰ってしまった教室に残った3人の令嬢が話し始める。彼女たちは「バートン様友の会」の広報担当である。
配られた資料に目を通し、1人がうっとりと呟いた。
「バートン様のお言葉、今回も素晴らしいですわ……」
「『贈り物は手紙が一番嬉しい』なんて……高価なものを贈れない一般クラスの方にも配慮をしてくださっているのね」
「バートン様のお言葉」は、エリザベス・バートン本人が友の会会員からの質問に答えたり、最近興味がある物事についてのコラムを書いたりする、会報の目玉となる人気コーナーである。
その内容を一足先に読めるのは、広報担当の役得と言えた。
感じ入った様子で資料をめくり、次のページを確認した瞬間ぱっと瞳が輝いた。
「まぁ! ご覧になって! 今回の挿絵は髪を下ろしていらっしゃるときのものよ!」
「グリーンヒル様の絵は本当に、まるで本物を紙の上に写し取ったかのようですわね」
「いつものきりりとしたお姿ももちろん素敵ですけれど……あのときも本当に格好良くていらっしゃったわ」
「どこか艶美で……失神してしまった方のお気持ちも分かりますわね」
ふぅ、と3人揃って恍惚のため息を漏らす。
しばらく余韻を味わっていたが、やがて気を取り直したように本題に取り掛かった。
「さて、今回の会報の内容ですけれど」
「バートン様の今後1ヶ月の活動のご予定と、会員からの投書コーナーはいつも通りとして……」
「ふふふ……私、今回はとっておきがありますのよ」
1人の令嬢が、どこかもったいぶった様子で立ち上がった。
他の2人の視線をたっぷり惹きつけてから、口を開く。
「先日バートン様が、アイザック様と肩を組んで、耳元で囁いていらっしゃるのが聞こえてきたのです! 『愛してる』と!」
「きゃー!!!!」
2人が黄色い声を上げた。
「こ、これは、どうなのかしら!? いつものご冗談でいらっしゃるの?!」
「その後のお話から推測すると、ふざけておっしゃっただけみたい」
「もう! バートン様、思わせぶりすぎですわ!」
興奮した様子できゃあきゃあと盛り上がる令嬢たち。
廊下を通りかかった男子生徒が驚いた顔で教室の中を窺いながら歩いて行った。
「それでしたら、わたくしもとっておきを!」
立っていた1人が座ったところで、鼻息も荒く別の令嬢が立ち上がる。
「この間、階段で足を滑らせた女子生徒を軽々抱きとめて、おっしゃったのよ! 『驚いたな。天使が降ってきたのかと思ったよ』と!」
「きゃー!!!!」
また歓声が上がる。
「なんと羨ましい……」
「あら、いけませんわ、バートン様友の会第3条!」
1人が号令をかけると、3人で声を揃えて言う。
「『他者を妬むことなかれ』」
その言葉を唱えて、互いに頷きあった。
「そ、そうですわね……いえ、妬んではいませんのよ。純粋に羨ましいなと……」
「こればっかりは時の運ですもの。仕方ありませんわ」
小さく息をつく。
事実、友の会の会員たちは誰しも1度くらいは他の会員から羨ましがられるような幸福を享受していた。
いちいち羨んでいてはきりがない、まして妬んでいたら果てがない、というのが会員の共通認識であった。
「そういえば、先日学園の入り口でバートン様が騎士団の制服……らしきものを着た方とお話をされていたのですけれど……」
「らしきもの?」
「上着を着ていらっしゃらなかったので、はっきりとは。でも濃紺のパンツをお召しでしたし、きっとそうだと思いますわ」
「訓練場の方かしら?」
「きっとそうですわ。とてもがっちりとした、筋骨隆々といった見た目の方でしたから」
顎に手を当てて、記憶を辿るように視線を彷徨わせる。
「30代か40代くらいの方で、年上だからだと思うのですが、バートン様が敬語で話されていましたの」
「まぁ、そうなんですの?」
「敬語は敬語なのですけれど、先生方や王太子殿下と話すときよりもずいぶん親しげな雰囲気で」
「し、親しげ……」
最初はお行儀よく座って聞いていた令嬢たちが、だんだんと前のめりになっていく。
一拍置いて、令嬢が続ける。
「何と言いますか……すごく、良かったのです」
「よ、良かったというのは?」
「バートン様、背が高くていらっしゃるから男性の方と一緒にいてもあまり体格差がありませんでしょう? ですが、その方は背も高くて非常にがっしりとしていて……バートン様がすごく、華奢に見えて」
「まぁ……」
他のご令嬢が手を口に当てて感嘆の声を上げた。学園内でそういった姿を見られるのは、ロベルト殿下と一緒の時くらいだからだ。
「しかも肩を組まれて、頭を撫でられていらっしゃったの」
「バートン様が!?」
「それは、あまり想像のつかない光景ですわ」
「でしょう? そのときにバートン様が照れくさそうに笑っていらしたのが……とても、印象的で」
「し、しっかりなさって! 貴女、ロベルト殿下を応援されていたはずでしょう!?」
「それはそうなのですけれど……」
令嬢が頬に手を当てて、悩まし気な表情で息をついた。
「年上、いいかも……と思ってしまいましたの」
その言葉に、ほかの2人も神妙な表情になってごくりと息を飲む。
しかし、そのうちの1人はぶんぶんと頭を振って立ち上がった。彼女の肩をつかんで揺さぶる。
「で、殿下だって年上ですわよ!」
「違いますの……私は気づきました。1つや2つの差ではない年の差があってこそなのですわ」
ゆるゆると首を振って否定する。そしてどこか夢を見るような目で、頬を紅潮させながら言葉を紡ぐ。
「まだお若く眉目秀麗のバートン様と、筋骨隆々で力強い大人の男性という見た目のギャップ……同じ職場の先輩後輩という関係性……気安く触れ合いバートン様もそれを受け入れているという距離感……」
「こ、これは……」
「アリ……ですわ……」
3人が神妙な表情で頷きあう。
「次の会報の特集は決まりましたわね」
「ええ」
「さっそく訓練場と友の会両方に所属している方に声をかけましょう」
分厚い会員名簿を取り出して、3人は取材の計画を立て始めた。
お察しの方もいるかもしれませんが、エリザベスが噂されている相手はグリード教官です。





