表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
Bonus Stage 番外編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

258/598

「別に。理由なんてないよ」

今日から毎日か2日に1回くらい、ちょこちょこと後日談等をアップしていきたいと思います。

まずは、エピローグ終了後のヨウのお話です。

エリザベス視点です。

「ヨウが?」

「ああ。お前さんに会いたいんだとさ」


 ある日、訓練場でグリード教官に呼び止められる。

 何かと思えば、現在捕虜として軟禁中のヨウの話をされた。


 東の国の立場は、現在の国際情勢の中で非常に悪くなっているらしい。

 それはそうだろう。戦争を仕掛けようとしていたのだ。

 大陸内で大きな勢力である西の国と我が国は強固な同盟関係にある。

 もし真っ向から争うようなことになれば、東の国の不利はほとんど揺らがないだろう。


 こちらがイニシアチブを取って交渉を進めているはずで、彼の返還にはそれ相応の条件を付けている。

 だが、向こう様がそれを飲まないのでなかなか返すに返せないようだ。


 お荷物な割に、第6王子では人質のカードとしては弱い。

 正直さっさとお引取り願いたいのだが……尻尾切りをされる可能性も十分にあるだろうと、私は踏んでいる。


「別に、会う義理はねぇだろうが。隊長が興味があるならと思ってな」

「いいですよ、別に」


 私は了承した。グリード教官が目を丸くする。どうも私が断ると思っていたらしい。


「あんのか、興味」

「ええ」


 私がにっこり微笑むと、グリード教官はばつの悪そうな顔で頭を掻く。

 何故か小声で、ここにはいないロベルトに謝っていた。



 ◇ ◇ ◇



 グリード教官に連れられて、王城の敷地内にある塔の地下へと向かう。

 いくらか入り組んだ通路を進んだ突き当りに、その部屋はあった。


 鉄格子があるが、その向こうはそれなりに広い。大きなベッドに、ソファに、机と椅子。

 普通の部屋といって差し支えない見た目だ。地下だが明かりも潤沢にある。


「なかなか快適そうですね」

「貴族用の牢だからな」

「食事は?」

「1日2回、看守が運んでくる」


「消灯時間は?」

「あー、夜十時だったか」

「何か欲しいものがある場合は?」

「危険物じゃなければ、看守に言えば手に入るものもある」

「家族との面会は?」


 私の問いに、だんだんとグリード教官の眉間の皺が深くなっていく。

 彼は胡乱げな瞳で私をじっと見て、言った。


「……隊長? まさか自分が牢に入るときのこと考えてないだろうな」

「あれ、バレましたか?」

「はー……興味って、そっちかよ……」


 グリード教官が片手で顔を覆ってため息をついた。

 不敬罪と隣合わせのところで生きている身としては、貴族用の牢というのがどんなものか気になって当然だろう。

 狭いので運動不足になりそうなところが玉に瑕だが、他は至って過ごしやすそうだ。


「おい、連れてきてやったぞ」


 グリード教官が鉄格子をがんがんと叩く。

 ベッドの上の布団がもぞもぞと動いたかと思うと、ヨウが姿を現した。

 前に見たときよりもやつれている。髪もぼさぼさだ。今起きたばかりだからかもしれないが。


 起き上がったヨウがこちらを見た。私と目が合う。

 彼はベッドから立ち上がると、よろよろとこちらに歩いてきた。

 半ば倒れ込むように、鉄格子に縋りつく。


「どうしてワタシを殺さなかっタ」


 光の入らない黒い目で、私を睨む。

 大げさだな、と思った。やつれてはいるが、それほど弱っているようには見えない。

 快適そうな部屋だし、食事も出ていると聞く。退屈な以外、不自由なく過ごしているだろうに。


「情けのつもりカ? 助けたつもりカ? まさかワタシに惚れていたわけでもないダロウ」

「別に。理由なんてないよ」


 私が答える。

 彼が私の顔に向かって唾を吐いた。


「貴様ッ」


 グリード教官が前に出ようとするのを、私は腕で制した。


「ハッ、結局ビビったんダロウ。お前のようにぬくぬくと育った甘ちゃんに、人間なんて殺せるものカ!」


 こちらを見て嘲笑するヨウ。私は顔を袖で拭うと、鉄格子を掴む。


「安い挑発だな」


 ふんと鼻で笑った。


「鉄格子があるからって、ずいぶん強気じゃないか。前に会ったときは惨めったらしく命乞いをしたくせに。牢屋に入ると態度が大きくなるのか? だとしたら、捕虜は天職かもしれないな」


 ぐいっと腕を左右に引くと、鉄格子がひん曲がった。私が容易に入れるだけの隙間が開く。


「え」

「ちょっ、隊長!?」


 グリード教官の制止を無視して、牢の中に入る。後ろを向いて、鉄格子を戻した。ヨウに向き直る。

 彼が見る見るうちに顔を青くして、後退った。


「ほら、わざわざ近くに来てやったぞ。唾だって掛け放題だ。挑発してみろよ」

「あ、う……」

「どうされたいんだ? おねだりしてみろ。私は甘いらしいからな。叶えてやるかもしれないぞ」


 じりじりと後退りをしていた彼の足が、ベッドに当たる。

 そのままベッドに尻餅をついた彼を追いかけて、私もベッドの上に登る。


「もしかして、『初めて』なんてリップサービスを本気にしたのか? だとしたら、とんだ勘違いだな」


 ヨウはとうとう壁際まで逃げて、背中を壁にぶつけた。

 私は壁に手をついて、彼を壁とベッドに縫い付ける。

 顔面蒼白の彼は、がくがくと震えていた。


「他人の行動に理由があると思っているなんて……ずいぶんお育ちがいいらしい。目の前を飛ぶ蝿を殺すにも生かすにも、理由なんていらないだろうに」


 髪を掴んで、こちらを向かせる。彼の表情が苦痛に歪んだ。

 私はそれを気に留めず、彼の瞳を見据えて、淡々と言う。

 大きく見開かれているせいで、黒い瞳の中の虹彩や瞳孔が、よく見えた。


「私はね、興味がないんだ。君が死んでいようが、生きていようが。生かしてやる義理もなければ、殺してやる義理もない。ただ、それだけだ」

「う、うぅ……っ」


 ヨウの目から、ぼろりと涙が零れた。


 彼は察しているのだろう。自分が東の国から切り捨てられることを。

 人間というものは厄介で、死にたくないときにはあっさり死ぬくせに、いざ死にたいと思ったときには、かなり頑張らないとなかなか死ねないものだ。


 だから私を挑発したのだ。このまま生きていたくなかった彼は、私を利用しようとしたのだろう。

 勝手なことを言うな、という気分だ。


 こんなに根性なしでよく乙女ゲームの攻略対象をやれたものだ、と思ったが……彼がこんな有様になってしまったのは、原作改悪の結果なのかもしれない。

 そう思うと彼も哀れな被害者だ。

 まぁ、彼が哀れだろうがなんだろうが、私には一切合切関係のない話なので、知らんけど。


「死にたければ、勝手に死んでくれ。生きたければ、勝手に生きてくれ。私の助けをあてにするな」


 ぱっと髪を掴んでいた手を離す。彼が小さく悲鳴を上げて、身体を丸めた。

 彼を無視して、ベッドから立ち上がる。また鉄格子を曲げて外に出た。

 元に戻したつもりだが……ちょっと歪んでしまったような気もする。


「あーあ。もう牢屋に繋いでも無駄ですよ、この人」


 どこからともなく、例の鉄砲玉――もとい、元暗殺者の声がした。グリード教官についてきていたらしい。


「だから言ったんです。虎を放し飼いにしているようなモンだって」


 ベッドですすり泣くヨウをじっと物欲しげな目で見ていたグリード教官が――いや待て、どうして物欲しげな顔で見ているんだ。おかしいだろう。情操教育に悪影響があるといけないので、気づかないフリを決め込む――私に向き直る。

 そして肩をがっしり掴んで、言い聞かせた。


「……隊長。頼むから牢屋が必要になるような真似をしないでくれよ」

「失礼だな……お前たち……」


 私は肩を竦めて、ため息をついた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍最新6巻はこちら↓
i000000

もしお気に召しましたら、
他のお話もご覧いただけると嬉しいです!

転生幼女(元師匠)と愛重めの弟子の契約婚ラブコメ↓
元大魔導師、前世の教え子と歳の差婚をする 〜歳上になった元教え子が死んだ私への初恋を拗らせていた〜

社畜リーマンの異世界転生ファンタジー↓
【連載版】異世界リーマン、勇者パーティーに入る

なんちゃってファンタジー短編↓
うちの聖騎士が追放されてくれない

なんちゃってファンタジー短編2↓
こちら、異世界サポートセンターのスズキが承ります

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ