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モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
Bonus Stage 番外編

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俺が自分に課した条件(ロベルト視点)

「攻略対象たちが何故本編中で告白しないのか」の言い訳パート2をお送りします。

今回はロベルト視点です。第4章長い長いエピローグ編の「18.10年早い」あたりの内容を含みます。


また、活動報告にちょっとしたイラスト等をアップしています。

ご興味のある方はどうぞ覗いてみて下さい。

 俺は浮かれていた。

 一時は隊長がリリア嬢を愛していて……それで彼女が幸せになるならばと身を引くことも考えたが、それが杞憂であったことが分かったのだ。


 つまり隊長は今、フリーなのだ。

 ライバルはいるが……兄上もギルフォードも、誰も彼女を射止めていない。

 となれば、俺が彼女に相応しい男になって、思いを告げればよいだけの話だ。


 そう思うと、自然に訓練にも身が入る。隊長も訓練場に顔を出してくださる頻度が増えて、俺は熱心に鍛錬に打ち込んでいた。

 すべてが順調だった。その、はずだった。


「ワタシはアナタに一目惚れしましタ! どうかワタシと結婚してくだサイ!」


 東の国からの留学生、ヨウが彼女に求婚するまでは。

 東の国の第6王子で、少し前から国賓として王城に滞在していたので、俺も挨拶程度には話をしていた。

 だが、まさかこんなことになるとは思わなかった。


 そこで俺はやっと理解した。

 たとえ彼女がリリア嬢を選ばなかったからと言って、隊長ほどの人を周囲が放っておくわけがない。

 俺が追いつくまでに、誰かが彼女を攫って行ってしまうかもしれない。


 リリア・ダグラスの言葉を思い出す。

 きっと、このことを言っていたのだ。


 でも俺は、自分で決めたのだ。

 この気持ちを告げるのは、彼女に勝てるくらいに強くなってからだと。

 それを曲げるような男に、自分で決めたことすら守れない男に、彼女が守れるだろうか。


 結局俺に出来るのは、今まで以上に鍛錬に打ち込むことだけだった。


 ◇ ◇ ◇


 ある日、とうとう訓練場にヨウが着いてきてしまった。

 ここは俺と隊長の場所なのに、と思うと何となく、面白くない。


 ヨウは隊長にまとわりつきながら、隊長に手合わせを申し込んでいた。

 ヨウの次は俺も相手をしてもらおうと眺めていると、ヨウはにっこり笑って言った。


「では……ワタシが勝ったら、ワタシと結婚してくだサイ」

「なっ」


 思わず声が出てしまった。

 何故、ヨウが、それを。

 だって、それは、俺が、ずっと。


「いいぞ」

「た、隊長!?」


 予想外の返事に、頭より先に身体が動いた。隊長とヨウの間に割り込もうとしたところを、隊長の腕が制する。

 どうして止めるんですか。

 どうして、「いい」なんて言うんですか。


 隊長はちらりと俺に視線を送ると、試合の際の定位置に歩いていく。


「まぁ、見ていろ」


 隊長はそう言った。

 行ってしまう。

 俺はその背中に、掛ける言葉が見つけられなかった。


 どうしよう。もし、隊長が、ヨウのことを……

 そう思う間もなく、ヨウが瞬く間に隊長に伸された。

 俺でも太刀筋を追えないような、早業だった。


「で?」


 隊長がヨウを見下ろし、笑う。

 凛と立っているその背中はもちろん、剣を払う仕草までもが美しく、俺は彼女に見惚れてしまった。


「お前が勝ったら、何だって?」

「な、何かの間違いデス! もう一回!」

「いいぞ、気が済むまでかかってこい」


 まったく相手になっていないヨウを見て、俺はほっと胸を撫で下ろす。

 そうだ。俺たちの隊長がそう簡単に負けるはずはない。


 そこからは安心して見学していたのだが……だんだんと、隊長が妙に楽しそうに笑っているのが気になって来た。

 試合の時は楽しそうにしていることが多い人だが、今日は何となく、いつもよりも楽しそうに見えた。


 また、不安がむくむくと頭をもたげる。

 隊長、どうしてそんなに、楽しそうなんですか?

 相手が、ヨウだからですか?


 へたり込んだヨウに立ち上がるよう急かす隊長。その姿に、また咄嗟に身体が動いた。

 彼女の腕を引いて、制止する。


「隊長、隊長!」

「ん」


 隊長はぴたりと動きを止めると、俺に視線を向けた。

 俺は次の言葉を考えていなかったのだが……隊長は一瞬はっと息を飲むと、咳払いをする。


「悪い。つい私怨が」

「楽しそう……ですね」

「否定はしない」


 そう答えた隊長の唇には、堪えきれない笑みが浮かんでいた。

 その表情に、また何となく「面白くない」という気持ちが生まれる。


 ああ、俺はこの人が好きなんだ、とそう思った。

 誰にも渡したくないくらいに。俺にだけ、笑ってほしいくらいに。

 面倒なものだと思っていた、俺には分からないと思っていた恋というものが、徐々にその輪郭を表してきたようだった。


「隊長」

「うん?」

「俺とも一戦、お願いします!」


 俺の言葉に、彼女はこちらを向いて、にやりと笑った。


 結局その日、俺は隊長に勝つことができなかった。

 けれど、隊長はこう言った。


「10年早い」


 その言葉に、俺は1年生の時のダンスパーティーを思い出した。

 エスコートを断られたあの日。何度も夢に見るくらい、忘れられない衝撃を受けたあの日。

 彼女は俺に言ったのだ。「私のエスコートなど百年早い」と。


 思わず彼女の手をぎゅっと握り込んだ。

 訓練場で出会ったばかりの頃……兄上に初めて勝った頃、握った隊長の手は、もっと大きく思えたのに。

 今では俺の手の方が、ずっと大きくなっていた。あの頃は、俺の方が背も低かった。

 いつの間にか、身長も、手の大きさも、俺は隊長を追い越していた。


「10年経ったら、追いつけますか?」


 気づいたら、口から言葉が零れだしていた。


 俺が自分に課した条件は、いつ越えられるのか分からないくらい、どこまでも高い壁で。

 だけど、それを曲げるようでは、俺は彼女に相応しい男とは、胸を張って言えないから。


「俺が追いつくまで……待って、いてくれますか?」


 きっと俺は、相当切羽詰まった顔をしていたのだろう。

 隊長は不思議そうに、首を傾げていた。


 俺だって……恋をすることがこんなに苦しいものだなんて、思わなかった。


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