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モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
Bonus Stage 番外編

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世界で一番大切な、かわいい妹(4)(お兄様視点)

第3章から第4章くらいにかけての、エリザベスの兄「お兄様」視点のお話その4です。

お兄様から見たエリザベスを取り巻く恋愛模様、という題材です。


今回はお兄様とクリストファーが中心です。

「リジーが、僕みたいな人がいいって言ったんだって?」

「そうなんです」


 クリストファーとお茶をしているとき、最近いろいろな人が振り回されているらしい妹の発言について確認してみることにした。やっぱり彼も知っているようだ。


 リジーのいないときに2人でお茶会をしたことを知ったら拗ねてしまいそうだけれど……こういうときでないと聞けないので、仕方ない。

 目の前に座った彼は瞳を伏せ、やれやれとため息をつく。


「兄上みたい、だなんて。無理に決まっています」

「そうかな?」

「そうですよ!」


 頬を膨らませるクリストファー。

 子リスのようでとても可愛らしいその仕草に、思わず緩みそうになる口元を必死で引き結んだ。

 いけない、いけない。笑ったらダメだよね。


「兄上のその優しさも、正直さも、誠実さも、思いやりも。心からのものです。だからこそ価値があるんです。真似しようと思っても、出来るものじゃない。真似だけしたって、出来上がるのは紛い物です」

「うーん。僕は、そんなたいそうなものじゃないと思うんだけど」


 照れくさくなって、結局笑ってしまった。

 弟も妹も、ちょっと僕のことを持ち上げすぎだと思うんだけど……もし2人がそう思ってくれているなら、こんなに嬉しいことはない。


 拗ねたような表情の弟を見つめる。

 僕は彼にも、もちろんリジーにも幸せになってほしい。

 2人にとっての幸せが何なのかは、きっと2人自身にしか分からないことだけれど……僕はそれぞれにとっての幸せを、応援できる兄でいたい。


 だから、弟ばかりの味方は出来ないけれど……少し手助けをするくらいは、いいよね。

 お砂糖の沈んだカップを、ティースプーンでくるりと混ぜる。


「リジーはきっと、『大切にしてくれる人』って言いたかっただけなんだと思うよ」

「え?」

「それをうまく言葉に出来なかったんじゃないかな? だから身近にいる僕のことを持ち出したんだ。だって僕は、あの子のことを世界で一番大切な、かわいい妹だと思っているから」


 妹の顔を思い浮かべる。

 いくつになっても、どんなに格好良くなっても、どれだけ強くなっても。あの子は僕の妹だ。

 だから僕はあの子に「大切だよ」と伝えてきたし、これからもずっと「大切だよ」と伝え続けると思う。


「僕が誰かと比べて、リジーにとって特別だって言うなら……それぐらいしか思いつかないよ。それだけは、僕が誇りと自信を持って、言えることだから」


 こちらをじっと見上げる弟の頭を、そっと撫でた。

 ふわふわのストロベリーブロンドに、僕の指が沈む。


「もちろん、君だってそうだよ、クリストファー。君は僕の、世界で一番大切な、かわいい弟だ」

「兄上……」

「だから応援してあげたい気持ちもあるけど……僕は、リジーの兄でもあるから」

「いえ、その気持ちだけで。これはぼくが頑張るべきことだと、思うので」


 僕の言葉に、クリストファーが微笑んだ。

 こちらを見上げる瞳に、意志のこもった光が見えた気がした。


 本当に、いつの間にか大きくなってしまうなぁ、と思った。

 嬉しいような、少し寂しいような。不思議な気持ちになってしまう。


 ロベルト殿下やアイザック君のことは、僕は何も知らなかったし……どうして相談してくれなかったのかな、と思うと、やっぱりちょっと寂しさが勝ってしまった。

 リジーが相談してくれなかったのは、たぶん……気づいていないからだろうな、とここまでの皆の反応から薄々察したけれど。


「ただ、兄上がもし『この人と結婚したら?』とか言おうものなら、姉上は瞬く間にその人と結婚してしまいそうなので……そこだけ気をつけていただければ」

「さすがに、そんなことは」


 どこか遠い目をして切実そうに語るクリストファー。

 その表情から、僕の知らないところでもいろいろと問題が起きているらしいことを悟る。


 とりあえず擁護してみたものの、クリストファーはゆるゆると力なく首を振った。


「姉上の兄上への信頼を甘く見てはいけません。『お兄様が言うなら』と言っている姿が目に浮かぶようです」


 僕にはあまり思い浮かばなかったけれど、彼の脳裏にはその様子がまざまざと映し出されているようだった。


 どちらかというと僕や両親の言うことをあまり聞かない印象のある妹だけれど――どれだけ危ないことをしないで、と言っても聞いてもらえないので困っているくらいだ。もし聞いてくれていたら、たぶん羆と戦ったりしないと思う――クリストファーの印象はそうではないみたいだ。


「姉上、自分の興味のないことに関してはものすごく、その」

「あー……うん、そうだね」


 クリストファーが言いにくそうに口ごもる。リジーには悪いけれど、納得してしまった。


 時々妙に思い切りがいいというか……ロベルト殿下への贈り物とかもそうだったなぁと思い出した。「何でもいい」「任せるよ」ばかりだとお母様と侍女長がぷりぷりしていたっけ。


 ……さすがに、自分の結婚には興味を持って欲しいのだけれど。

 何だったら、僕の結婚のほうを心配してくれているくらいだ。

 今度リジーに「自分の心配をなさってください」と言われたら、「君もだよ」と言ってみようと思う。


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