とある暗殺者の尋問記録
活動報告にあった小話を引っ越しました。
モブメインで、こちらは少し変わったインタビュー形式です。
本編で言うと第2章 学園編1年目の「21.もっと見ていいんですよ」の直後くらいの時系列です。
――――どうして暗殺をしようとした?
そりゃ旦那、仕事ですから。やらなきゃおまんまにありつけないんでね。
まぁ今回は、暗殺ってよりか「最近どうにも調子に乗ってるようだからビビらせて来い」ってのが依頼だったんで、怪我でもさせてやれば十分の、軽い仕事だろうと思ってたんですよ。
――――今の気持ちは?
いや私もね、この仕事はそこそこ長いもんですから。失敗したことがないなんて言いませんよ。
でもここまでものの見事にしくじったのはさすがに初めてですね。
正直言って、まだ信じられないぐらいですよ。
まさかこっちがビビらされることになるとは。
――――ビビらされる?
そりゃビビるでしょう。刺したと思った瞬間、刃が横滑りしたんですから。
商売道具ですからね、ちゃんと切れ味には気をつけているんですよ。
それがね、刃が入っていかない。ほんと、鎖帷子でも着ているのかと思いましたよ。
――――だが実際はそうではなかった、と。
……あとから服捲ってたのも見ましたが、普通のシャツしか着てませんでしたね。
服を巻き込んだだけって可能性もありましたけど。押せども引けども刃が進まないし、戻らない。
鎖帷子のようなものに引っかかっている風でもない。
プロだってのに一瞬パニックになりましたよ。お恥ずかしい限りです。
――――そのとき、相手は?
焦ってとっさに相手の顔色を窺ったんですがね。
笑ってました。
その瞬間悟りましたよ。私は捕まったんだって。
私が言うのもなんですが、ありゃ確実に悪人ですね。
騎士の制服着てましたが、中身はどっちかってぇと私ら側の人間です。
――――仕事の依頼主を言う気はあるか?
あります、あります。
ここまで来たらいくらでも喋りまさぁ。あんな無様な捕まり方したんじゃ、この国じゃもう仕事は無理です。なら、信用なんてもんはドブに投げ捨てて命乞いしますよ、私は。
どうです。いくらでも喋りますよ。今回の仕事のことでも、昔の仕事のことでも。
――――目的は?
私も命だけは惜しいんでね。何でも喋りますから、うまいこと私を国外に逃がしてくれやしませんか。
死んだふりなら得意です。常連さんのお貴族様の名前だって喋ります。だからどうか、内密に、表向きは死罪、裏では国外追放ってことで。もちろん、二度とこの国には近づきません。
これでも業界ではまぁまぁ名うてでしたし、悪い話じゃないはずですよ。
――――他に何か、言っておきたいことはあるか?
あの騎士、私なんかよりよっぽど、牢屋につないでおいた方がいいと思いますよ。
虎を街中に放し飼いにしているのと同じです。あんなのがいる国じゃ、たとえ死刑にならなくたって安心して眠れやしない。
――――お前が刺した騎士、公爵家のご令嬢だぞ。
……は?
旦那、何をおっしゃいますやら。あ、これ笑うところですね。失礼しました。ははは。
――――それでもって、俺の教官仲間だ。
はぁ?
――――で、お前が暗殺しようとしたのは、俺の訓練場の候補生だ。
え、えーと。旦那?
どうしたんです、怖い顔して。
やだな、私、脅さなくても全部正直に話しますよ?
……生かしておいた方が、絶対に利用価値、ありますよ?
いいんですか? 私に依頼したのが誰か、分からなくなっても。
――――痛めつけなくても喋るってんなら、痛めつけたって喋るだろ。





