43.友情エンドらしい「真実の愛」
「ここまで来ればとりあえず、火事に巻き込まれる心配はないかな」
廃屋から少し離れたところで、リリアとヨウを地面に降ろす。
さすがに2人抱えて綱渡りじみたことをしたので肩が凝った。
落ちてはいけないと思うと妙な緊張感がある。気分はSAS○KEだ。
胡乱げな瞳でこちらを見上げていたリリアが、口を開く。
「……エリ様って、不死身なのでは?」
「失礼だな、私だって死ぬときは死ぬよ」
「たとえば」
「たとえば…………老衰とかで」
「天寿を全うする気じゃないですか」
ツッコミが飛んできた。元気そうで何よりだ。
「それよりこれ、聖女の祈りで止血だけでもできないかな。血が止まってないみたいで……このまま帰ったら家族にバレてしまう」
「血止まってなかったんですか!?」
「うん、すごく視界の邪魔だった」
リリアが呆れた顔をして私に近づいてきた。頭に手をかざそうとしたので、屈んでやる。
瞬間、リリアの身体がぱっと発光した。
「え?」
2人で同時に声を上げてしまった。
頭に手をやると、あったはずの真新しい切り傷が綺麗さっぱりなくなっている。
結構ざっくりと切れていたはずなのだが。他にも、顔や手足の細かい擦り傷や痣などがすべて無くなっていた。
「リリア、それ……」
「だ、大聖女の、力……ですね……」
主人公の身体が光るスチルには見覚えがあった。どれも、大恋愛ルートで大聖女の力に目覚めた時のものだったはずだ。
リリアが自分の手のひらを見つめる。感覚を確かめるように、軽く握ったり開いたりを繰り返していた。
「最近、力が強まっている感じは、していたんです。でも、それを使いこなせていなくて……このくらいなら、治せるはずなのに、変だなって、思っていて」
以前聞いた時には、ちょっとした擦り傷か、せいぜいたんこぶくらいが関の山だと言っていた。
今回の私の怪我はおそらくそれよりもひどかったはずで、だから私も止血程度しか期待していなかったのだが。
「でも、今自然と、その感覚が分かったんです」
「突然、分かるものなのかな。ゲームでは、『真実の愛』が必要って話だったけど」
「わたし……今日、エリ様のこと、信じてたんです。絶対、来てくれるって」
彼女の言葉に、私はなるほどなと手を打った。親愛度ではなくて、信頼度というわけだ。
友情エンドらしい「真実の愛」の形じゃないか。
「王子様を信じる真の心、これを愛と言わずして何というのでしょう!」
「はい?」
「助けてほしいから信じたわけじゃないんです。そんなことは関係なくて、わたしが信じたいから信じたんです。あのとき、羆からわたしを守ってくれたエリ様を……嘘になんかしたくないから。愛がほしいから愛するんじゃないんです。自分が愛したいから愛する、自分が信じたいから信じる。見返りを求めるんじゃなく、一方的に押しつけがましいほどに抱くのが、真実の愛!」
「…………」
何だろう。絶対違う。絶対に違うことが私にも分かる。
押しつけがましい愛が真実の愛でたまるか。
恋は一人、愛は二人じゃないのか。
「エリ様、わたし、見つけました! 真実の愛!」
拳をぎゅっと握りしめるリリアに、何から説明したものかと眉間を押さえたところで、彼女の背後でどーんと爆風が巻き起こった。
ここまで火の粉が飛んでくる勢いの爆発が起き、わずかに形を保っていた廃屋が完全に炎に包まれる。
身の危険がない状態でその現実離れした風景を見ていると、何となくテレビでも見ているような気分になる。
胸を過ぎった懐かしい気持ちに、ふと気づいた。
「あー……そうか。もうすぐ年越しだもんね」
「え?」
「ほら、爆発を見るとこう……ああ、年が変わるなって感じがするだろ?」
「え?」
「え?」
リリアが聞き返すものだから、私も聞き返してしまった。
とぼけているのかと思いきや、どうやら本当に分かっていないようで、背景に宇宙を背負った猫の顔で私と炎を交互に見ている。
「爆発で、年越し? え?」
「あ、分かった。見ていた番組が違うんだ」
話がかみ合わない理由に思い至った。リリアはきっと歌番組派だったに違いない。
しかしリリアは怪訝そうな顔を止めてくれなかった。
「番組とかの範疇ですか? その感想。え? エリ様ほんとにわたしと同じ文化圏から転生してきてます? 紛争地帯とかではなく?」
「失礼だな、爆発に風流を感じたぐらいで」
「感じないでください!」
この話を年末年始にやりたくて、ここまで急いできたのでした。
やっぱり年越しは爆発ですよね!





