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モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
第1部 第4章 長い長いエピローグ編

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43.友情エンドらしい「真実の愛」

「ここまで来ればとりあえず、火事に巻き込まれる心配はないかな」


 廃屋から少し離れたところで、リリアとヨウを地面に降ろす。

 さすがに2人抱えて綱渡りじみたことをしたので肩が凝った。

 落ちてはいけないと思うと妙な緊張感がある。気分はSAS○KEだ。


 胡乱げな瞳でこちらを見上げていたリリアが、口を開く。


「……エリ様って、不死身なのでは?」

「失礼だな、私だって死ぬときは死ぬよ」

「たとえば」

「たとえば…………老衰とかで」

「天寿を全うする気じゃないですか」


 ツッコミが飛んできた。元気そうで何よりだ。


「それよりこれ、聖女の祈りで止血だけでもできないかな。血が止まってないみたいで……このまま帰ったら家族にバレてしまう」

「血止まってなかったんですか!?」

「うん、すごく視界の邪魔だった」


 リリアが呆れた顔をして私に近づいてきた。頭に手をかざそうとしたので、屈んでやる。

 瞬間、リリアの身体がぱっと発光した。


「え?」


 2人で同時に声を上げてしまった。

 頭に手をやると、あったはずの真新しい切り傷が綺麗さっぱりなくなっている。

 結構ざっくりと切れていたはずなのだが。他にも、顔や手足の細かい擦り傷や痣などがすべて無くなっていた。


「リリア、それ……」

「だ、大聖女の、力……ですね……」


 主人公ヒロインの身体が光るスチルには見覚えがあった。どれも、大恋愛ルートで大聖女の力に目覚めた時のものだったはずだ。


 リリアが自分の手のひらを見つめる。感覚を確かめるように、軽く握ったり開いたりを繰り返していた。


「最近、力が強まっている感じは、していたんです。でも、それを使いこなせていなくて……このくらいなら、治せるはずなのに、変だなって、思っていて」


 以前聞いた時には、ちょっとした擦り傷か、せいぜいたんこぶくらいが関の山だと言っていた。

 今回の私の怪我はおそらくそれよりもひどかったはずで、だから私も止血程度しか期待していなかったのだが。


「でも、今自然と、その感覚が分かったんです」

「突然、分かるものなのかな。ゲームでは、『真実の愛』が必要って話だったけど」

「わたし……今日、エリ様のこと、信じてたんです。絶対、来てくれるって」


 彼女の言葉に、私はなるほどなと手を打った。親愛度ではなくて、信頼度というわけだ。

 友情エンドらしい「真実の愛」の形じゃないか。


「王子様を信じる真の心、これを愛と言わずして何というのでしょう!」

「はい?」

「助けてほしいから信じたわけじゃないんです。そんなことは関係なくて、わたしが信じたいから信じたんです。あのとき、羆からわたしを守ってくれたエリ様を……嘘になんかしたくないから。愛がほしいから愛するんじゃないんです。自分が愛したいから愛する、自分が信じたいから信じる。見返りを求めるんじゃなく、一方的に押しつけがましいほどに抱くのが、真実の愛!」

「…………」


 何だろう。絶対違う。絶対に違うことが私にも分かる。

 押しつけがましい愛が真実の愛でたまるか。

 恋は一人、愛は二人じゃないのか。


「エリ様、わたし、見つけました! 真実の愛!」


 拳をぎゅっと握りしめるリリアに、何から説明したものかと眉間を押さえたところで、彼女の背後でどーんと爆風が巻き起こった。

 ここまで火の粉が飛んでくる勢いの爆発が起き、わずかに形を保っていた廃屋が完全に炎に包まれる。


 身の危険がない状態でその現実離れした風景を見ていると、何となくテレビでも見ているような気分になる。

 胸を過ぎった懐かしい気持ちに、ふと気づいた。


「あー……そうか。もうすぐ年越しだもんね」

「え?」

「ほら、爆発を見るとこう……ああ、年が変わるなって感じがするだろ?」

「え?」

「え?」


 リリアが聞き返すものだから、私も聞き返してしまった。

 とぼけているのかと思いきや、どうやら本当に分かっていないようで、背景に宇宙を背負った猫の顔で私と炎を交互に見ている。


「爆発で、年越し? え?」

「あ、分かった。見ていた番組が違うんだ」


 話がかみ合わない理由に思い至った。リリアはきっと歌番組派だったに違いない。

 しかしリリアは怪訝そうな顔を止めてくれなかった。


「番組とかの範疇ですか? その感想。え? エリ様ほんとにわたしと同じ文化圏から転生してきてます? 紛争地帯とかではなく?」

「失礼だな、爆発に風流を感じたぐらいで」

「感じないでください!」


この話を年末年始にやりたくて、ここまで急いできたのでした。

やっぱり年越しは爆発ですよね!

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― 新着の感想 ―
私は爆発に春を感じるタイプですw
笑ってはいけないやつですねwwwww
[一言] 爆発は春の季語じゃよ
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