表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブ同然の悪役令嬢に転生したので男装して主人公に攻略されることにしました(書籍版:モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う)  作者: 岡崎マサムネ
第1部 第4章 長い長いエピローグ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

226/598

40.わたしは主人公ですよ(リリア視点)

「ねぇ、見えてるんですよね?」


 わたしは語り掛けました。

 ヨウにではありません。ここにいるし、どこにもいない。そういった、普遍的な存在へ。


 ヨウが怪訝そうな顔でわたしを見ます。


「何を言っているのデス?」

「あなたには言っていませんよ。世界の意思すら教えてもらえない、可哀想な操り人形さん」


 ヨウをあからさまに見下して、ころころと笑って見せます。これでは、わたしが悪役令嬢みたいですね。


 あるタイミングから――エリ様のルートに分岐したあたりから、わたしは自分の「運命力」が高まっていくのを感じていました。

 それは、聖女としての力の根源です。聖女の力というのは、運命を捻じ曲げる力だと、わたしは理解しています。


 たとえば、死ぬ運命にある人を生かしたり。怪我をなかったことにしたり。恋に落ちるはずがなかった人を、魅了したり。

 「こうなるはずだった」という運命を捻じ曲げて、結果を変える。それが聖女の力のからくりです。


 その力が、どんどんと高まっていました。もう、この身に抑えられないほどに。

 それは、主人公としての力が高まっているからだと思っていましたが……どうやら違ったみたいです。


「あなたたちはエリ様の――エリザベス・バートンの『原作改変』を恐れた。世界の『運命』を変えさせないために……わたしに『運命力』を過剰に与え続けた。……その身を削ってまで」


 彼女のことを思い出します。きっと手違いでこの世界に転生させられた彼女が、どれほどの血の滲むような努力を経て、そこに立っているのか。

 どれほどの運命を捻じ曲げて、どれほどの運命をなぎ倒して、そこに立っているのか。


「ある時気がつきました。わたしの『運命力』の源が、世界ではなくわたしの内に移っていることに。この意味、分かりますか? わたしの運命力は、この世界の創造主であるあなたたちを凌駕した」


 わたしは話しかけます。ヨウを通して、この世界の創造主に。世界機構そのものに。神と呼ばれる存在に。


「あなたたちも力があるんですから、分かるでしょう? それとも、そんな実力差もわからないくらいに耄碌してしまったんでしょうか」


 どこか遠くで、花火の音がします。何でしょう、お祭りでもあるのでしょうか。

 でも、もう深夜といって差し支えのない時間帯です。それでもご近所迷惑にならないほど、ここは王都から離れているということでしょうか。


「もうわたしは、あなたたちの手に負えるものではなくなった。もう、この世界の権限はわたしに委譲されています」


 自分の手のひらを見つめます。使いこなせている感じはあまりしませんし……結局、エリ様だったら捻じ曲げられてしまう程度の力なのでしょうけど。


「今更あなたたちが外野から何をしようとしても、無駄です。転入生を1人滑り込ませるのが関の山だったはず」


 目の前のヨウを見ます。世界を原作どおりに戻すために、改悪されてしまったキャラクター。

 わたしにとって、敵ではありません。恋敵ですらありません。ただ、可哀想なだけのひと。

 わたしは原作のままのヨウの方が、好きでした。二推しでしたし。


 原作に戻すために原作を捻じ曲げるなんて、やぶれかぶれというか、本末転倒と言うか。


「そんな力では、わたしに……わたしの望む運命には、勝てない」


 わたしは笑います。大好きなあのひとの真似をして、口角を上げて、不敵に笑います。


「自らが産んだ化け物に、あなたたちは食い殺されるんです」

「先程から、誰と話しているのデス!? ついに頭でもおかしくなったのデスか?」

「わたしは正常です」


 地鳴りがします。まるでわたしの怒りに反応して、地面が震えているようでした。


「おかしいのはあなたたちです。わたし、こんなふうにしてくれなんて頼んでません。美少女に、聖女に、主人公ヒロインに産んでくれなんて。頼んでません。あなたたちのせいで、わたしがどれだけつらかったか。どれだけ虚しかったか。やっと、やっとそのつらさを、虚しさを埋めてくれる人と出会えたと思ったのに。それが、筋書きと違ったからって今更文句を言ってくるなんて。わたしのエリ様に手を出そうとするなんて。分かります? わたし、怒っています」

「ノー! おかしくなったのでショウ。己の身が害されるという恐怖で! 泣いて許しを乞うのなら……そうデスね、ワタシの愛人として迎え入れてあげないこともないデスよ! アナタは見た目だけは良いデスから!」

「ふふ」


 小悪党然とした様子で高笑いをするヨウを見て、わたしはまた唇で弧を描きます。


「笑わせないでください。わたしは主人公ヒロインですよ」


 がしゃん、がしゃん。どこかで何かが壊れるような音がします。何かが崩れるような音がします。


主人公ヒロインのピンチにはね……王子様が助けに来るって、相場が決まっているんです」


 音がだんだんと近づいてきます。ヨウが音のする方へ――壁へ視線を向けました。

 瞬間、轟音がして壁が吹き飛びます。


「ああ、やっと来た」


 降り注ぐ瓦礫と砂埃の中、立っていたのは。


「わたしの、王子様」


 エリザベス・バートンその人でした。


「な、何故、そいつが……!」


 驚いた表情で彼女を見るヨウ。

 エリ様は、特に気負った風もなく当たり前のようにそこに立っていました。

 よく見るとどこか怪我をしているのか、顔の右側が血で染まっていて、右目が開いていません。服もぼろぼろだし、何故かびしょ濡れだし、砂埃で汚れていました。


 その姿を見て、ぎゅっと胸が締め付けられます。やっぱり、来てくれた。「命の危険がなければ」なんて言っていたのに。

 その気持ちに答えるように、わたしは胸を張って、ヨウに向き直ります。


「わたしは主人公ヒロインですよ? 悪役令嬢の1人や2人、コマせないとでも?」

「えーと? どうも、コマされた悪役令嬢でーす」


 エリ様がよく分かっていないような顔をして、そう言いました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍最新6巻はこちら↓
i000000

もしお気に召しましたら、
他のお話もご覧いただけると嬉しいです!

転生幼女(元師匠)と愛重めの弟子の契約婚ラブコメ↓
元大魔導師、前世の教え子と歳の差婚をする 〜歳上になった元教え子が死んだ私への初恋を拗らせていた〜

社畜リーマンの異世界転生ファンタジー↓
【連載版】異世界リーマン、勇者パーティーに入る

なんちゃってファンタジー短編↓
うちの聖騎士が追放されてくれない

なんちゃってファンタジー短編2↓
こちら、異世界サポートセンターのスズキが承ります

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ